1. はじめに
ヒドロホウ素化反応は、アルケンやアルキンにホウ素化合物を付加させる手法であり、立体選択的かつ位置選択的な変換が可能である。この反応においては、ボラン(BH3_33)やホウ素錯体(ピナコールボラン、テキシルボラン、カテコールボラン)が使用されるが、特に9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9-BBN)がよく用いられる。9-BBNは、ホウ素上の置換基が立体的にかさ高く、特定の位置選択性を向上させる利点がある。一方で、副生成物であるシクロオクタン誘導体の除去が課題となることがある。ヒドロホウ素化によって生成されるアルキルボランは、酸化処理によってアルコールに変換される。
2. 実験方法
2.1 材料と試薬
- トリエン (1.09 g, 3.22 mmol)
- 9-BBN (0.43 M の THF 溶液, 8.22 mL, 3.54 mmol)
- 水 (8 mL)
- 過ホウ酸ナトリウム四水和物 (NaBO3_33・4H2_22O, 2.48 g, 16.1 mmol)
- 飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL)
- ヘキサン、メチルtert-ブチルエーテル (MTBE)
- 塩化カルシウム (乾燥剤)
- シリカゲル
- 酢酸エチル
2.2 実験手順
- 窒素雰囲気下で、100 mLの丸底フラスコにトリエン (1.09 g, 3.22 mmol) を加える。
- シリンジを用いて、9-BBN のTHF 溶液 (0.43 M, 8.22 mL, 3.54 mmol) を滴下し、混合物を室温で80分間撹拌する。
- 反応が完了したら、水 (8 mL) を加えた後、過ホウ酸ナトリウム四水和物 (2.48 g, 16.1 mmol) を加える。この操作は発熱を伴う。
- 溶液を70分間激しく撹拌し、飽和塩化アンモニウム水溶液 (30 mL) を加える。
- 生成した混合物をヘキサンとMTBE (1:1, 50 mL) で3回抽出する。
- 有機相を塩化カルシウムで乾燥させ、ろ過後、減圧下で溶媒を除去する。
- 得られた無色の残渣液体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル20 g/ヘキサン-酢酸エチル10:1~4:1)で精製する。
2.3 結果
精製後、無色液体のアルコール誘導体が得られる。収量は911 mgであり、収率は79%。
3. 反応の詳細
3.1 9-BBNの使用による選択性の向上
9-BBNは、ホウ素原子にかさ高い置換基を持つため、立体選択性が向上する。
このため、ヒドロホウ素化反応の位置選択性が高まり、目的の生成物を効率的に得ることが可能。
3.2 酸化処理によるアルコール生成
ヒドロホウ素化反応で生成されたアルキルボランは、通常の後処理として酸化反応によりアルコールに変換される。本実験では、過ホウ酸ナトリウムを用いて酸化が行われ、第一級アルコールが得られた。
3.3 副生成物の除去
9-BBNを使用すると、副生成物としてシクロオクタン誘導体が生成される。これを効率的に除去するためには、適切な抽出操作と精製手順が必要である。
カラムクロマトグラフィーによる精製が重要。
4. 考察
4.1 反応条件の最適化
本実験では、反応時間や温度などの条件がアルコール収率に影響を与える可能性がある。撹拌時間や酸化剤の量、添加速度などを最適化することで、より高収率で目的生成物を得ることができると考えられる。
4.2 9-BBN以外のホウ素化合物の使用
9-BBN以外にも、ピナコールボランやカテコールボランなどのホウ素化合物が使用可能である。それぞれの試薬により反応の選択性や速度が異なるため、目的に応じた試薬の選定が重要である。
5. 練習問題
以下に、ヒドロホウ素化反応に関連する簡易な練習問題を示す。
- ヒドロホウ素化反応における9-BBNの利点を説明せよ。
- ヒドロホウ素化後のアルキルボランを酸化する目的は何か。
- 反応において、過ホウ酸ナトリウムの役割を説明せよ。
- 副生成物であるシクロオクタン誘導体を除去する方法を述べよ。
- ピナコールボランと9-BBNの違いを反応性の観点から説明せよ。
解答
- 9-BBNは、立体的にかさ高い置換基を持ち、位置選択性を向上させるため、特定の炭素-炭素二重結合への選択的な付加が可能である。
- アルキルボランを酸化することで、アルコールに変換し、目的のアルコール誘導体を得るためである。
- 過ホウ酸ナトリウムは、酸化剤としてアルキルボランをアルコールに変換する役割を持つ。
- シクロオクタン誘導体は、有機溶媒での抽出およびカラムクロマトグラフィーによって除去される。
- ピナコールボランはより小さな置換基を持つため、反応性が高いが、位置選択性は9-BBNよりも低い。