





結晶性高分子の熱的挙動は、その分子構造や結晶度に依存し、示差走査熱量分析(DSC)や示差熱分析(DTA)において、温度変化に伴うエンタルピーの吸収・放出として観測される。
以下、DSCにおけるガラス転移、結晶化、融解、酸化、分解のそれぞれの熱的挙動と特徴について説明する。
DSCにおける基本的な熱的挙動
DSCでは、加熱または冷却中の高分子サンプルの発熱・吸熱反応が熱流量として検出される。DSCの熱流量曲線(熱流量 vs 温度)は、異なる温度範囲における材料の熱的挙動を特徴づける。一般的に以下のようなパターンが見られる:
- 発熱反応(エキソ熱):結晶化、酸化反応など。
- 吸熱反応(エンド熱):ガラス転移、融解、分解反応など。
ベースラインとピークの形状
- ベースライン:熱流量曲線の基準線。発熱・吸熱に伴い上下に変動する。
- ピークの形状:吸熱・発熱反応によりピークが現れる。結晶化や融解のピークは一般的に鋭く、ガラス転移のピークは緩やかな変化として現れる。
1. ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移の特性
ガラス転移は、高分子のアモルファス(非晶質)部分がガラス状からゴム状に変化する現象であり、可逆的である。DSCにおいては、ガラス転移は鋭いピークを持たないが、ベースラインの緩やかなシフト(吸熱に伴う)として観測される。ガラス転移点(Tg)は、通常ベースラインの変化が始まる温度から決定される。
- 特徴:吸熱反応として観測。
- ベースライン変化:緩やかな吸熱によるベースラインの上昇。
- 可逆性:冷却後に再加熱した場合でも、再びガラス転移が観測される。
2. 結晶化温度(Tc)
結晶化の特性
結晶化は、アモルファス状態の高分子が結晶化する際に見られる発熱現象であり、可逆的である。特に溶融状態から冷却することで結晶化が容易に観察され、温度を一定範囲に保つことで結晶核が成長する。DSCでは結晶化温度(Tc)として鋭い発熱ピークが観測される。
- 特徴:発熱反応として観測。
- ピークの形状:結晶化に伴う鋭い発熱ピーク。
- 可逆性:一度溶融状態に戻し再び冷却すれば、同じ温度範囲で結晶化ピークが観測される。
3. 融解温度(Tm)
融解の特性
融解は、結晶性高分子の結晶部分が融解する際の吸熱現象であり、可逆的である。DSCにおいては、融解温度(Tm)において吸熱ピークが現れる。非晶質ポリマーでは融解や結晶化は見られない。
- 特徴:吸熱反応として観測。
- ピークの形状:鋭い吸熱ピーク。
- 可逆性:冷却により再結晶化し、再加熱すると同じ融解ピークが観測される。
4. 酸化反応
酸化の特性
酸化反応は、酸素が存在する環境で加熱することで発生する発熱反応であり、不可逆的である。空気中での酸化は一般に燃焼に似た現象であり、高分子が急速に分解することが多い。DSCでは酸化による発熱ピークが観測されるが、酸素を遮断すれば再現されない。
- 特徴:発熱反応として観測。
- ピークの形状:急激な発熱ピーク。
- 不可逆性:酸化反応後には構造が変化し、再び酸化ピークは現れない。
5. 分解反応
分解の特性
分解反応は、高分子が高温により化学構造を崩壊させる現象であり、一般的に吸熱反応として観測される。分解は不可逆であり、不活性ガス中での加熱によって分解温度(Td)付近で吸熱ピークが観測される。
- 特徴:吸熱反応として観測。
- ピークの形状:緩やかな吸熱ピーク。
- 不可逆性:分解後は再び同じ分解ピークは現れない。
概略図:DSCにおける各熱的挙動の模式図
以下に、DSCの温度と熱流量のグラフにおける、各熱的挙動を示す概略図を示す(例示用)。

- ガラス転移:ベースラインの緩やかな変化。
- 結晶化:鋭い発熱ピーク。
- 融解:鋭い吸熱ピーク。
- 酸化:急激な発熱ピーク。
- 分解:緩やかな吸熱ピーク。
学習用の練習問題
問題1
ガラス転移温度(Tg)はDSCにおいてどのように観測されるか、特徴とベースラインの挙動を述べよ。
解答:
ガラス転移温度はDSCにおいて吸熱現象として観測され、ベースラインが緩やかに上昇する。ピークは鋭くなく、アモルファス部位のガラス状からゴム状への変化を示す。可逆的であり、冷却しても同じ温度で再び観測される。
問題2
酸化反応が不可逆である理由と、DSCにおける発熱ピークの特徴について述べよ。
解答:
酸化反応は化学構造の変化を伴うため不可逆的である。DSCにおいては発熱ピークが鋭く現れるが、酸素が遮断されると反応が再現されない。
問題3
DSCにおける結晶化と融解の挙動の違いを説明せよ。
解答:
結晶化は冷却時にアモルファス部が結晶を形成する発熱反応で、鋭い発熱ピークが見られる。融解は結晶が溶融する吸熱反応で、鋭い吸熱ピークが観測される。どちらも可逆的であり、温度変化に伴い繰り返し観測可能である。




