高分子材料の特性や用途は、分子構造に大きく依存する。特に立体規則性(タクティシティ)は、分子鎖の剛直性や溶解性、結晶性などに影響を与えるため、高分子の機能や用途を決定する重要な要素である。
ここでは、イソタクチック高分子とシンジオタクチック高分子の構造の違いについて詳述し、それぞれの三連子(トリアッド)構造とその意味について説明する。
タクティシティ(立体規則性)とは
タクティシティとは、繰り返し単位の置換基が立体的にどのように配列されているかを示す概念である。高分子において、この規則性がある場合には立体規則性が高いとされ、無秩序である場合は無規則性高分子(アタクチック)と呼ばれる。
特に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの置換基を持つ高分子において、タクティシティは材料の特性に影響を与える。ここでは、以下の3つの代表的なタクティシティについて説明する。
- イソタクチック:全ての置換基が同じ側に配置される構造
- シンジオタクチック:置換基が交互に配置される構造
- アタクチック:無秩序に配置される構造
イソタクチック高分子の構造
イソタクチック高分子では、全ての繰り返し単位の置換基(例:PMMAのメチル置換基)が同じ側に位置する。
イソタクチック構造では、規則正しい並びによって高い結晶性が発現するため、分子鎖が密にパッキングしやすく、物理的強度が高まる。この規則性のため、イソタクチック高分子は比較的剛直な分子鎖を持ち、結晶性の高い高分子として知られている。
イソタクチックトリアッド(mmトリアッド)
イソタクチック高分子の三連子構造である「イソタクチックトリアッド」または「mmトリアッド」は、3つの繰り返し単位の置換基がすべて同じ側に配置されている状態を指す。
イソタクチックトリアッドが長く連続することで、高い規則性と結晶性が維持され、これが材料の物理的な特性に貢献する。ポリプロピレンなどの高結晶性ポリマーはこのイソタクチック構造によって優れた剛性を持つ。
シンジオタクチック高分子の構造
シンジオタクチック高分子では、繰り返し単位の置換基が交互に配置される。すなわち、前方、後方、前方といった形で交互に位置し、置換基が反対方向に並ぶようになる。この配置により、柔軟性が増し、溶解性も向上する傾向がある。
シンジオタクチックトリアッド(rrトリアッド)
シンジオタクチック高分子の三連子構造である「シンジオタクチックトリアッド」または「rrトリアッド」は、置換基が3つの繰り返し単位において交互に配置されている状態を指す。
シンジオタクチックトリアッドが連続すると、ジグザグ状の構造が分子鎖全体に及び、高分子は結晶性を持ちながらも柔軟な性質を持つことが可能になる。PMMAのシンジオタクチック構造では、この交互配列が特有の溶解性と加工性を与える。
平面ジグザグ構造におけるイソタクチックとシンジオタクチックの違い
イソタクチックPMMAの構造
PMMAのエステル置換基とメチル基が同じ側に揃った平面ジグザグ構造を形成することで、分子鎖が規則的に並び、高い結晶性が得られる。このような構造により、イソタクチックPMMAは硬く、透明性や耐熱性にも優れている。
シンジオタクチックPMMAの構造
シンジオタクチックPMMAでは、置換基が交互に前後するように配置されているため、規則性はあるが一方で柔軟性が高い。この構造はポリマーが溶媒中での溶解性を増すため、成型加工がしやすい特性を持つ。
タクティシティが高分子物性に与える影響
- 結晶性と剛性:イソタクチック高分子は高い結晶性を有するため剛性が増加する一方、シンジオタクチック高分子は柔軟性と溶解性に優れる。
- 熱的安定性:一般的に、イソタクチック構造を持つ高分子は熱安定性が高く、シンジオタクチック構造はやや低下する傾向がある。
- 溶解性と加工性:シンジオタクチック高分子は溶解性が高く、加工がしやすいため、多用途に応用されることが多い。
練習問題
問題1
イソタクチック構造に関して正しいものを選べ。
- 置換基が交互に並んでいる
- すべての置換基が同じ側に並んでいる
- 置換基の配置に規則性がない
解答と解説:2. イソタクチック構造では、すべての置換基が同じ側に配置されている。
問題2
シンジオタクチック高分子の特性として適切なものはどれか。
- 溶解性が低い
- 硬くて剛性がある
- 柔軟性があり、溶解性が高い
解答と解説:3. シンジオタクチック高分子は置換基が交互に並ぶため、柔軟性と溶解性に優れている。
問題3
三連子(トリアッド)において、イソタクチックトリアッドはどのように表されるか。
- mmトリアッド
- mrトリアッド
- rrトリアッド
解答と解説:1. イソタクチックトリアッドは、3つの繰り返し単位の置換基がすべて同じ側に配置されているmmトリアッドと呼ばれる。