常温で断熱膨張させた際の分子のポテンシャルエネルギー変化と運動エネルギー変化の関係を考察し、冷却が起こった理由を説明せよ。

実在気体のポテンシャルエネルギーは、分子間の相互作用によって決まります。常温での多くの実在気体では、ポテンシャルエネルギーは負の値を持ち、これは分子間に引力が働いていることを意味します。

以下では、2つの実在気体分子の重心間距離 rと2体ポテンシャルエネルギー U(r) の関係を考え、断熱膨張による分子のポテンシャルエネルギー変化と運動エネルギー変化の関係について考察し、冷却が起こる理由をジュールトムソン効果を用いて説明します。

ポテンシャルエネルギーと運動エネルギーの関係

断熱膨張とは、外部との熱交換がない状態で気体が膨張するプロセスです。

このとき、気体の総エネルギーは保存されますが、内部エネルギーの変化が起こります。

内部エネルギーは運動エネルギー(温度に依存)とポテンシャルエネルギー(分子間相互作用に依存)から成り立ちます。

断熱膨張では、以下のようなエネルギーバランスが成り立ちます。

ΔU+ΔK=0

ここで、ΔU はポテンシャルエネルギーの変化、ΔKは運動エネルギーの変化です。

ジュールトムソン効果と冷却

ジュールトムソン効果は、実在気体が多孔質栓などを通過する際に温度が変化する現象を説明します。これは、気体が膨張する際にポテンシャルエネルギーの変化が運動エネルギーの変化を引き起こすためです。

ジュールトムソン係数 μJTは次のように定義されます。

μJT=(∂T/∂P)H

ここで、μJT>0 の場合、気体の膨張により温度が低下します。

実在気体では、ポテンシャルエネルギーが負であるため、分子間の引力が働き、膨張する際にはポテンシャルエネルギーが減少します。

この減少分は運動エネルギー(温度)の低下として現れます。

具体的には、断熱膨張の過程で分子間距離 r が増加し、ポテンシャルエネルギー U(r) がより負の値に移行します。

これにより、内部エネルギーの一部がポテンシャルエネルギーとして吸収され、運動エネルギーが減少し、温度が低下します。

結論

実在気体の断熱膨張において、ポテンシャルエネルギーが減少し、それに伴い運動エネルギーも減少するため、冷却が起こります。

ジュールトムソン効果を用いることで、この現象を説明することができます。

ジュールトムソン効果により、ポテンシャルエネルギーの変化が運動エネルギーの変化として現れ、結果的に温度が低下することが理解されます。

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