概要
MOMエーテル(メトキシメチルエーテル)は、有機合成でよく用いられる保護基の一つであり、特にフェノールやアルコール基の保護に適している。本記事では、2,6-ジブロモフェノールをMOMエーテルで保護する手順を詳述する。反応は水素化ナトリウムでフェノールのアルコキシド塩を形成した後、クロロメチルメチルエーテルとの反応によりMOMエーテルを生成する方法である。
1. 必要な試薬と器具
試薬
- 2,6-ジブロモフェノール:58.0 g (230.2 mmol)
- THF(テトラヒドロフラン):300 mL
- 水素化ナトリウム(60%分散):13.8 g (345 mmol)
- クロロメチルメチルエーテル:22.5 mL (300 mmol)
- エーテル:300 mL
- 3M水酸化ナトリウム水溶液:75 mL
- 無水硫酸マグネシウム:適量
器具
- 二重層式の冷却バス
- 温度計
- かくはん機
- 分液ロート
- ロータリーエバポレーター
2. 実験手順
2.1. フェノール塩の生成
2,6-ジブロモフェノール(58.0 g、230.2 mmol)をTHF(300 mL)に溶解し、0°Cに冷却する。冷却状態を維持しつつ、少量ずつ水素化ナトリウム(60%分散、13.8 g、345 mmol)を加える。この際、水素ガスが発生するため、通気性を確保し、火気厳禁の環境で操作する必要がある。水素発生が停止した後、さらに5分間待機し、完全に反応が進行したことを確認する。
2.2. MOMエーテルの生成
水素ガス発生が完全に停止した後、クロロメチルメチルエーテル(22.5 mL、300 mmol)を冷却したまま0°Cでゆっくりと添加する。添加が完了した後、反応混合物を徐々に室温(25°C)に昇温し、2時間かくはんし続ける。
2.3. 反応後処理と精製
反応が完了したら、エーテル(300 mL)を加えて反応混合物を希釈する。次に、分液ロートを用いて反応混合物を3M水酸化ナトリウム水溶液(75 mL)で3回洗浄し、未反応のフェノールを除去する。これにより、精製が容易になる。
有機相を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させる。乾燥後、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を除去し、黄色液体として目的物であるMOMエーテル化合物が得られる。収量は66.2 gであり、収率は97%である。
3. 注意点とポイント
3.1. 水素化ナトリウムの取扱い
水素化ナトリウムは水分と反応して水素ガスを発生するため、必ず乾燥環境で取り扱うこと。また、非常に発火性が高いため、実験中の火気は厳禁である。
3.2. クロロメチルメチルエーテルの毒性
クロロメチルメチルエーテルは発癌性物質であるため、取り扱いには極めて注意を要する。換気の良いドラフト内で操作し、手袋やゴーグルなどの防護具を着用することが必要である。
3.3. 洗浄工程
フェノールが残存していると生成物の純度が低下するため、3M水酸化ナトリウムでの洗浄は十分に行うことが重要である。3回洗浄を行うことで、未反応のフェノールが効果的に除去される。
4. 理論的背景
4.1. MOMエーテルによる保護基の役割
MOMエーテルは酸性条件で比較的安定であり、脱保護には酸触媒やフッ化物イオンが用いられる。この特性により、酸性条件下での反応においてフェノールやアルコール基を保護するのに適している。また、クロロメチルメチルエーテルを用いたエーテル化反応は収率が高く、効率的な保護が可能である。
4.2. 水素化ナトリウムによるアルコキシド形成
水素化ナトリウムは強力な塩基であり、フェノールと反応してフェノラートアニオンを生成する。これにより、クロロメチルメチルエーテルとの反応性が高まり、効率的なエーテル化が進行する。