家電製品の筐体に使用されるプラスチックは、過去の火災事故の経験を踏まえ、燃えにくくする技術が進化してきた。その中でも注目されるのが「難燃剤」と「難燃助剤」の組み合わせである。
本記事では、プラスチックの難燃化技術の概要と、特にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の役割に焦点を当てる。
プラスチック筐体の火災対策の背景
家電製品の火災リスクと課題
プラスチックは加工が容易で軽量であるため、家電製品の筐体に広く使用されている。しかし、プラスチックは可燃性が高く、燃焼時に溶けて垂れ落ちる「ドリップ」が延焼リスクを高める点が課題となっていた。
難燃剤の導入
プラスチックの燃焼を抑えるために、難燃剤を配合する技術が開発された。これにより、燃焼の速度を抑え、火災の拡大を防ぐ効果が得られる。しかし、難燃剤だけでは、ドリップの防止という点では不十分であった。
難燃助剤PTFEの特性と効果
PTFEとは何か
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、一般的に「テフロン」として知られる高性能樹脂で、耐熱性や難燃性、化学的安定性に優れている。特定の種類のPTFEは、繊維状の「フィブリル」を形成する性質がある。
フィブリル化のメカニズム
PTFEを成形前のプラスチックに約0.01~1%の割合でブレンドすると、プラスチックの成形後に三次元的なフィブリルネットワークが形成される。このフィブリル構造は非常に微細で、電子顕微鏡で観察して初めて確認できるレベルのものである。
ドリップ防止剤としてのPTFEの役割
ドリップ防止の仕組み
プラスチック筐体が着火した場合、通常は高温で溶融し、燃えながら垂れ落ちる。しかし、PTFEのフィブリルネットワークがプラスチックの融液を包み込み、垂れ落ちを防ぐ。このため、延焼リスクが大幅に軽減される。
燃焼規格UL94での評価
PTFEを配合したプラスチックは、UL(アンダーライターズラボラトリー社)の難燃性規格「UL94」において高いランク(V0やV1)を獲得している。このランクでは、プラスチックの燃焼試験中に滴下物が脱脂綿を着火させないことが条件となっており、PTFEのドリップ防止効果がその達成に寄与している。
難燃プラスチックの応用例
使用されるプラスチックの種類
PTFEが難燃助剤として配合されるプラスチックには、以下のようなものがある:
- ポリカーボネート:耐衝撃性と透明性に優れる。
- ABS樹脂:成形性が高く、家電や自動車部品に広く使用される。
- 耐衝撃ポリスチレン:軽量でコストが低い。
これらのプラスチックは、テレビ、パソコン、FAX、プリンターなどの家電製品やOA機器に採用されている。
難燃助剤技術の課題と今後の展望
環境問題への配慮
難燃剤や助剤に使用される化学物質が環境や人体に与える影響が懸念されている。そのため、ハロゲンフリーの難燃技術やリサイクル性の向上が今後の課題となる。
新しい技術の可能性
PTFE以外のフィブリル形成物質や、生分解性を持つ難燃助剤の開発が期待されている。これにより、安全性と環境負荷軽減の両立が可能になる。
練習問題
問題1:PTFEの役割
PTFEがプラスチックの燃焼時に果たす主な役割を答えよ。
解答:PTFEはフィブリルネットワークを形成し、プラスチックの融液が垂れ落ちる「ドリップ」を防ぐことで、延焼の危険性を軽減する。
問題2:UL94規格でV0ランクを得る条件
UL94規格のV0ランクを得るために必要な条件を述べよ。
解答:試験中にプラスチックの滴下物が脱脂綿を着火させないことが必須条件である。
問題3:PTFEが使用されるプラスチックの例
PTFEが難燃助剤として使用されるプラスチックを3種類挙げよ。
解答:
- ポリカーボネート
- ABS樹脂
- 耐衝撃ポリスチレン