分圧の基本概念
分圧の定義を教科書で調べると不可解なものが多い。
ここでは分かりやすく定義したい。
定義
分圧とは、混合気体の各成分気体が単独でその全体積を占めたと仮定した時の圧力である
つまり分圧は、混合気体の中で特定の気体成分が示す圧力のことを指す。これは、気体の成分が全体の圧力に対して寄与する割合を示すものである。
例えば、空気は主に窒素(N₂)と酸素(O₂)で構成されており、これらの気体がそれぞれ示す圧力を窒素の分圧、酸素の分圧と呼ぶ。
解説
分圧の定義については先述のとおり。
教科書でよく見られる分圧の説明は「分圧は混合気体中の各成分の圧力である」というもので、いかにも分圧を直ちに測定可能だるという前提で書かれている。
しかし、分圧は仮定のものであって、ほとんどの気体の分圧は直接計測できない。
以下に空気を酸素:窒素=1:4の混合気体であるとし、二種の分圧を考えてみる。
この図を見ると、体積が大きくなると薄められて濃度が小さくなることが一目で分かる。
分圧が濃度であると実感できるはずだ。教科書等で分離した空気を「空気の状態」として表されている事が散見されるが、このような空気は存在しない。
空気10L中の酸素は10Lであり、窒素もアルゴンも二酸化炭素も10Lである。
つまり、空気は濃度の薄い各気体成分の重ね合わせであるといえる。
ちなみに分圧の計算は以下のようになる。
分圧の計算方法
分圧は以下の式を用いて計算される。
Pi=Xi⋅Ptotal
ここで、Pi は成分気体 i の分圧、Xi は成分気体 i のモル分率(モル数の割合)、Ptotal は混合気体全体の圧力である。
空気の構成と各成分の分圧
空気の主要成分
空気は主に以下の成分から成る。
- 窒素(N₂):約78%
- 酸素(O₂):約21%
- アルゴン(Ar):約0.93%
- 二酸化炭素(CO₂):約0.04%
その他にも微量な気体が含まれているが、これらが空気の大部分を占める。
各成分の分圧
標準大気圧(1気圧、約101.3 kPa)において、各成分の分圧は以下のように計算される。
窒素の分圧
窒素のモル分率は0.78であるため、
PN2 = 0.78×101.3 kPa≈79.0 kPa
酸素の分圧
酸素のモル分率は0.21であるため、
PO2 = 0.21×101.3 kPa≈21.3 kPa
これにより、空気中の主要な成分の分圧が求められる。
分圧の応用
生物学における分圧
生物にとって重要なのは、酸素の分圧である。
酸素は呼吸によって取り込まれ、血液を通じて体内の細胞に供給される。このため、酸素の分圧は細胞呼吸の効率に直結する。高山病などは酸素の分圧が低下することによって引き起こされる。
工業における分圧
工業プロセスでも分圧の概念は重要である。
例えば、化学反応の効率を高めるために、特定の気体の分圧を調整することがある。合成アンモニアの製造などがその例である。
分圧に関連する法則
ドルトンの法則
ドルトンの法則は、混合気体の全圧力は各成分気体の分圧の総和に等しいことを示している。
Ptotal=P1+P2+⋯+Pn
ここで、各 Pi は成分気体の分圧である。
ヘンリーの法則
ヘンリーの法則は、液体中に溶解する気体の量がその気体の分圧に比例することを示している。
C=kH⋅P
ここで、C は溶解した気体の濃度、kH はヘンリー定数、P は気体の分圧である。
具体例と練習問題
具体例
例えば、酸素ボンベを用いる場合、その内部の酸素の分圧を適切に管理することで、安全かつ効率的に酸素を供給できる。
ダイバーが深海に潜る際も、窒素酔いを防ぐために酸素と窒素の分圧を調整する。
練習問題
- 標準大気圧下で窒素の分圧を計算せよ。
- 標準大気圧下で酸素の分圧を計算せよ。
- ドルトンの法則を用いて、空気中の窒素と酸素の分圧の総和を求めよ。
- ヘンリーの法則を用いて、一定の圧力下で水に溶解する酸素の量を求めよ。
- 混合気体が50%の酸素と50%の窒素から成る場合、その分圧を計算せよ。
解答と解説
- PN2=0.78×101.3 kPa≈79.0 kPa
- PO2=0.21×101.3 kPa≈21.3 kPa
- Ptotal=PN2+PO2=79.0 kPa+21.3 kPa≈100.3 kPa
- ヘンリー定数 kH が既知の場合、C=kH⋅PO2 により計算可能。
- 各成分の分圧は PO2=0.5×Ptotal と PN2=0.5×Ptotal により計算される。例えば、全圧力が1気圧の場合、それぞれ50.65 kPaとなる。
まとめ
分圧の概念は、物理学、化学、生物学、工学など多くの分野で重要な役割を果たしている。
特に空気中の窒素と酸素の分圧は、我々の生活に直結する要素であり、その理解は様々な応用に役立つ。