フォトレジストは、フォトリソグラフィ工程において光を用いて微細なパターンを形成するための感光性材料である。半導体製造や微細加工分野で不可欠な材料として利用され、ポジ型フォトレジストとネガ型フォトレジストに大別される。ここでは、それぞれの特徴と代表的な反応メカニズムについて解説する。
ポジ型フォトレジストの反応メカニズム
概要
ポジ型フォトレジストは、光が照射された部分が溶解しやすくなる性質を利用してパターンを形成するタイプのレジストである。照射された領域の分子構造が変化することでアルカリ性の現像液に対する溶解性が増し、現像工程で光照射部分が溶け出してパターンを残す。
使用材料と化学構造
ポジ型フォトレジストの主な材料として、以下の高分子が使用される:
- ノボラック樹脂:一般的な感光材料で、フェノール誘導体をベースとする。ノボラック樹脂は、露光によって酸の発生により基材の分解を促進する。
- スチレン誘導体の共重合体:側鎖に官能基を持ち、その官能基が保護されている状態では不溶性であるが、光照射によって保護基が除去され溶解性が増す。たとえば、tert-ブトキシカルボニル基(t-BOC基)などの官能基が典型である。
反応のメカニズム
- 光照射による官能基の分解:フォトマスクを通して紫外線(UV光)を照射すると、保護基が分解されて溶解性が変化する。
- 酸発生剤(PAC)の働き:光により酸発生剤が分解し、生成された酸が高分子内の保護基を除去する。
- 現像工程での溶解:アルカリ性の現像液中で、光照射部のみが溶解し、パターンが形成される。
具体例:ノボラック樹脂とt-BOC基の反応
ノボラック樹脂にt-BOC基が結合している場合、UV光を照射すると酸発生剤が酸を生成し、この酸によってt-BOC基が分解される。この結果、照射部の樹脂はアルカリ現像液で溶解し、ポジ型パターンが得られる。
ネガ型フォトレジストの反応メカニズム
概要
ネガ型フォトレジストは、光照射された部分が逆に不溶化する性質を持つ。光が当たった領域で化学結合が強化され、現像液に対して不溶化するため、ポジ型と反対の画像パターンが形成される。
使用材料と化学構造
ネガ型フォトレジストには、以下のような高分子材料が使用される:
- シンナモイル基を持つ高分子:代表的なネガ型材料で、シンナモイル基は紫外線照射により分子間で反応し、架橋(クロスリンク)が形成されて不溶化する。
反応のメカニズム
- 光照射による架橋反応:シンナモイル基が紫外線により[2+2]環化反応を起こし、分子間で架橋が生成される。
- 不溶化:架橋が進むことで高分子全体がネットワーク構造を形成し、現像液に対して不溶性になる。
- 現像工程:光照射されていない部分が現像液で溶解し、ネガ型のパターンが形成される。
具体例:シンナモイル基を持つ高分子の反応
シンナモイル基を持つ高分子では、紫外線照射によりシンナミック酸誘導体が分子間架橋を生成する。この架橋構造によって、光照射部分が不溶化し、現像工程で非照射部分のみが溶解されることで、ネガ型のパターンが得られる。
ポジ型とネガ型フォトレジストの比較
ポジ型フォトレジスト | ネガ型フォトレジスト | |
---|---|---|
光照射による変化 | 溶解性が増す | 不溶化する |
現像パターン | 照射部が除去される(ポジ型パターン) | 照射部が残る(ネガ型パターン) |
代表的な材料 | ノボラック樹脂、t-BOC基 | シンナモイル基を持つ高分子 |
使用用途 | 高解像度が必要な場面で使用 | 高感度が求められる場合に利用 |
練習問題
問題1
ポジ型フォトレジストに使用されるノボラック樹脂は、光照射後にどのような変化が起こるか述べよ。
解答と解説
ノボラック樹脂を含むポジ型フォトレジストでは、光照射によって酸発生剤が分解し酸が生成され、樹脂の保護基が分解される。これによりアルカリ現像液への溶解性が増し、光照射部が除去されてパターンが形成される。
問題2
ネガ型フォトレジストの反応で鍵となる「[2+2]環化反応」とはどのようなものか説明せよ。
解答と解説
[2+2]環化反応とは、二つの二重結合が光照射により反応して四員環を形成する反応である。シンナモイル基を持つネガ型フォトレジストでは、この反応が分子間で起こることで架橋が生成され、不溶化が進行する。
問題3
ポジ型フォトレジストとネガ型フォトレジストの違いを、光照射部分の現像工程における挙動から説明せよ。
解答と解説
ポジ型フォトレジストでは光照射部分が溶解性を持ち、現像工程で除去されるため、照射部分がパターンとして取り除かれる。一方、ネガ型フォトレジストでは光照射部分が架橋され不溶化し、現像液に溶解しないため、照射された部分がパターンとして残る。