まず、この問題を考えて見てほしい。
ここで、丸は気体分子を表すとする。固い壁にぶつかって、摩擦なしで完全弾性衝突をすることにして、その中心の軌跡を描くとどうなるであろうか。
答えはすべての記事説明を見た後にもう一度考えてみると良い。
この記事では理想気体と実在気体の違いについて解説する。
理想気体とは
理想気体の定義
理想気体とは、分子間に相互作用がなく、分子自身の体積が無視できる仮想的な気体である。
この仮定の下で、理想気体は理想気体の法則(ボイルの法則、シャルルの法則、アボガドロの法則)に厳密に従う。
理想気体の法則
理想気体の状態方程式は以下のように表される。
PV=nRT
ここで、Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは絶対温度である。
この方程式は、温度、圧力、体積が広範囲にわたって変動しても成り立つとされる。
実在気体とは
実在気体の定義
実在気体は、現実の物理的存在を持つ気体であり、分子間に相互作用が存在し、分子自身の体積も無視できない。
無効な体積(箱)
この体積は無効な体積だと考えることができる。
箱を考えてみよう
無効な体積は箱の全面に存在する。図に表すと上図のようになるが、この箱に沿った無効な体積は果たして考慮に値するだろうか。
無効な体積(衝突)
次に、分子同士の衝突を考える。
手始めに2分子が衝突することにする。
分子は球形で完全弾性衝突することにすれば、このような軌跡が描ける。
一つの分子の周りには、その直径の2倍の直径をもつ無効な体積が生まれる。
すなわち、その体積は分子の体積の8倍である。ということは2分子で8倍であるから、1分子につき4倍である。
これが実在気体の分子の無効な体積である。3分子以上が同時に衝突することは確立が低いので、無視できる。
排除体積
先に述べた箱の壁に沿った無効な体積と、分子の周りにある排除堆積とでは、どちらが無視し得るのであろうか。
前者は箱に固有のものであり、中に詰め込まれる気体の物質量とは無関係だ。ところが、後者は気体の物質量に比例して増えるはずである。
したがって、実在気体の排除体積は分子の周りの無効な体積のことである。
これにより、理想気体の法則から逸脱する振る舞いを示す。
排除体積の総和を表すと次のようになる。
実在気体の特性
実在気体は、高圧または低温の条件下で特に理想気体の法則から逸脱する。
このような条件下では、分子間引力や斥力の影響が顕著になり、体積の非可逆性も無視できなくなる。
理想気体と実在気体の違い
排除体積
先述した排除体積をbとすると、実在気体が理想気体として振る舞い得る範囲はV-bになる。
これを理想気体の状態方程式に代入すると次の式が得られる。
p(V-b) = RT
この関数をもとに、まずボイルの法則について考えてみよう。
ボイルの法則
これはpVの積が一定であるからpの関数にすると双曲線の一方となる。
高圧では排除体積の減少分だけ圧力が大きくなるだろう。しかし、その変動は相対的に小さく、グラフの太さ程度で見えにくい。
そこで、今度は変化量が見やすい縦軸をpVとしてみる。
縦軸pV
理想気体では、pVの積が一定であるから、縦軸をpVとしてみる。
このように理想気体と実在気体の差が顕著に現れるようになった。
もっと見やすくするには、縦軸の次元をRで除したものにし、温度変化を無視できるように分母にTを入れた
pV/RT
を縦軸に設定する。
できたグラフが教科書でよく見るものである。
y=1を通る傾きb/RTの直線
以上よりこの説明が可能になる。
実在気体も高温低圧では理想気体に近づく
分子間相互作用
さて今度は分子間力について考えてみる。
違いを簡単にまとめるとこのようになる。
理想気体:分子間の相互作用は無視できる。
実在気体:分子間に引力や斥力の相互作用が存在する。
しかし、本質的な議論には分子間力がどの程度の範囲まで働くかを考慮すべきである。分子間力は距離の約6〜7乗に反比例すると言われる。
すなわち、距離が2倍になると力は1/100以下になるということだ。
つまり、分子間力は衝突する瞬間にしか働かないと言えるのではないだろうか。
それでは、何分子が衝突するかを考える。2体衝突はあり得るが、3体以上になると確立的に無視しても構わない。
衝突確立は、体積あたりの分子数(濃度)の2乗に比例する。
したがって、分子間力による圧力の減少の度合いはこの式で成り立つ。
X = kN2/V2(ここでkは比例定数)
これら分子間力を考慮した実在気体の圧力は次のようになる。
分子間力によって弱められた理想気体分子の圧力は小さくなる。
つまり、
実在気体の圧力は理想気体の圧力より小さい
状態方程式
理想気体:理想気体の法則に従う(PV=nRT)。
実在気体:ファン・デル・ワールスの状態方程式などの修正が必要。
実際の応用例
工業プロセスにおける実在気体
化学工業や石油精製など、多くの工業プロセスでは高圧や低温の条件下で気体を取り扱うため、実在気体としての挙動を考慮する必要がある。
例えば、液化天然ガス(LNG)の製造や貯蔵、輸送では、実在気体の特性を正確に理解し、管理することが重要である。
宇宙工学における実在気体
宇宙工学でも、実在気体の理解は重要である。
例えば、ロケットエンジンの設計において、推進剤の気体が高圧高温の条件下でどのように振る舞うかを正確に予測することが求められる。
まとめ
実在気体の挙動は分子間力や分子の大きさにより変化する。
例えば、水素とヘリウムでは分子量の違いや体積の違いによりこのようにグラフの傾きが変化する。
理想気体と実在気体の違いについては以上だ。
これより下に最初の問題の解答を示す。
正解は上図である。分子の中心は壁に到達しない。色がついた部分は分子が入り込めない無効な体積である。
次にほとんどの人が犯すミスを示そう。
このように描く人が多いが、これでは気体分子が壁にめり込んでいることになる。