スーパーエンプラとは何か?:高性能プラスチックの革命

はじめに

スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)は、耐熱性、機械的強度、耐薬品性などの特性において非常に優れたプラスチックである。

これらのプラスチックは、通常のエンジニアリングプラスチックよりもさらに過酷な条件下で使用されることを想定して開発された。

そのため、航空宇宙、電子機器、自動車、医療などの産業分野で広く利用されている。

本記事では、代表的なスーパーエンプラであるPPS、PSU、ポリエーテルケトン(PEEK)、非晶性ポリアリレート、LCP、芳香族ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールの特性や用途について詳述する。

PPS(ポリフェニレンサルファイド)

PPSの基本特性

PPSは、耐熱性と耐薬品性に優れたスーパーエンプラであり、-70°Cから+200°Cの広い温度範囲で安定した物性を保つ。

PPSは結晶化度が耐熱性の鍵となるため、熱処理による結晶化度の制御が重要。

耐衝撃性に課題があるため、無機フィラーやガラス繊維と複合化して強化。

ちなみに、射出成形の場合、繊維やフィルムは単独で使用。

PPSの用途

PPSは、その特性を活かし、自動車部品(エンジン部品、電装品)や電子機器のコネクタ、絶縁材などで利用されている。

また、化学工業向けのバルブやポンプ部品にも使用され、厳しい化学環境にも耐えうる材料として信頼されている。

歴史

1897年。Greenvesseが初めて合成した。しかし用途がなく放置。

1948年。A.D.Macallum。架橋構造が生じて制御困難。

1959年。Dow Chemical。銅を使用しているため、高コストで精製困難。

1973年。Phillips。1984年の特許失効まで独占生産。莫大な利益を得た。

この反応は求核的機構で進行。加圧条件で実施。パラ位の置換基効果が反応性に影響。

Floryの理論から外れ、非等mol・低反応率でも高重合度

初期技術では分子量の増大に課題があった。そこで、酸素を共存させると、ラジカル機構でも反応し架橋。水や有機酸を共存させると、直鎖状で高重合度に。

PSU(ポリスルホン)

PSUの基本特性

ガラス転移点190℃。熱変形温度は175℃。

非晶性のポリマー。

PSUは、透明性を持ちながらも高い耐熱性(使用温度範囲は-100°Cから+150°C)と優れた機械的強度を持つスーパーエンプラである。また、耐薬品性にも優れており、特に酸やアルカリに対する耐性が高い

1965年にユニオンカーバイドが開発した。

PSUの用途

PSUは、医療機器や食品産業で広く利用されている。

具体的には、耐熱性と透明性を活かしたオートクレーブ対応の医療器具、食品加工機械の部品などが挙げられる。

また、高温での寸法安定性が求められる航空宇宙部品にも使用されている。

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)

PEEKの基本特性

1978年に発明。1981年〜1999年まで物質特許で独占市場

莫大な利益を得た。

ガラス転移点143℃、融点334℃。耐熱性、対薬品性が傑出。リサイクル(再利用)可能、低コスト、自動車・航空機材料。

PEEKは、スーパーエンプラの中でも最高レベルの機械的強度と耐熱性(使用温度範囲は-60°Cから+250°C)を持つ。

さらに、耐薬品性や耐放射線性、優れた疲労強度を兼ね備えており、過酷な環境下でも長期間にわたり性能を維持できる。

PEEKの用途

PEEKは、航空宇宙や自動車、医療分野での高負荷部品に使用されている。

例えば、ジェットエンジンの部品や、自動車のエンジン周辺部品、さらに、体内に埋め込む医療用インプラントなど、極限の耐久性が求められる分野での使用が一般的である。

PEKK

1962年 DuPontが開発。パラ配向は不完全→不規則に分岐。

結晶性が高く難溶→重合度低下→大量のAlCl3で可溶化

1971年 Raychem。直鎖状・高重合度、高環境負荷・危険性

↓アルケマ(仏)が工業化に成功

テレフタル酸クロリド・イソフタル酸クロリド混合物。結晶性が低下するため、溶解性が向上。詳細な技術は非公開のため不明。

非晶性ポリアリレート

貴重な日本初のスーパーエンプラ!

非晶性ポリアリレートの基本特性

非晶性ポリアリレートは、耐熱性、耐薬品性、優れた光学特性を持つスーパーエンプラである。

ガラス転移温度は220°C以上と高く、透明性と機械的強度のバランスが非常に良い。

非晶性ポリアリレートの用途

この材料は、特に光学分野で活用されており、液晶ディスプレイの基板や光ディスク、カメラレンズなどに使用される。

また、高温環境下での絶縁材としても利用されることが多い。

LCP(液晶ポリマー)

タイプⅠ

タイプⅡ

タイプⅢ

LCPの基本特性

LCPは、分子が液晶状態で配向することで非常に高い機械的強度と優れた熱的安定性を持つスーパーエンプラである。

ガラス転移温度は280°C以上に達し、耐熱性が極めて高い。また、低い線膨張係数を持ち、寸法安定性が非常に高い。

LCPの用途

LCPは、微細電子部品やコネクタ、フレキシブルプリント基板など、電子機器分野での用途が多い。

加えて、寸法安定性が求められる高精度部品や、熱に対して極めて強いプラスチックが必要とされる環境での使用が一般的である。

芳香族ポリイミド

芳香族ポリイミドの基本特性

芳香族ポリイミドは、最高レベルの耐熱性を持ち、連続使用温度は300°Cを超える。

さらに、優れた機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性を兼ね備えており、極めて過酷な環境での使用が可能である。

芳香族ポリイミドの用途

この材料は、航空宇宙分野や電子機器の高温部品、そして特に耐熱性が要求されるモータースポーツの部品に使用される。

また、高耐熱性フィルムや、フレキシブル基板としても広く利用されている。

ポリベンゾオキサゾール(PBO)

PBOの基本特性

PBOは、スーパーエンプラの中でも特に機械的強度と耐熱性が際立っており、耐熱性は450°Cに達することができる。

さらに、高い耐摩耗性と耐薬品性も特徴である。

PBOの用途

PBOは、その圧倒的な強度と耐熱性を活かし、航空宇宙産業での使用が最も多い。

また、耐摩耗性に優れているため、防護服や高性能繊維としても利用されている。例えば、宇宙探査機のケーブルや、高温環境下でのベアリング、シール材としての用途がある。

まとめ

スーパーエンプラは、一般的なプラスチックでは対応できない過酷な環境での使用を可能にする高性能材料である。

また、開発すれば独占生産が可能で莫大な利益を得ることができる夢のある市場だ。

安いポリマーからスーパーエンプラを開発することができれば億万長者も夢じゃない。

PPS、PSU、PEEK、非晶性ポリアリレート、LCP、芳香族ポリイミド、そしてポリベンゾオキサゾールは、各々が異なる特性を持ちながらも、いずれも高い耐熱性、機械的強度、耐薬品性を兼ね備えており、それぞれの産業分野で欠かせない素材となっている。

今後も、これらの材料の技術革新と新たな応用が期待される。

練習問題

以下にスーパーエンプラに関する簡単な練習問題を5つ用意した。各問題には解説と解答を付けたので、学習の一助にしてほしい。

問題1: PPSの使用温度範囲は何度か。

  • a) -50°Cから+150°C
  • b) -70°Cから+200°C
  • c) -100°Cから+250°C
  • d) 0°Cから+100°C

解説: PPSは、非常に広い温度範囲で安定した物性を持つため、多様な用途に適している。 解答: b) -70°Cから+200°C

問題2: PSUの主な用途として適切なのはどれか。

  • a) 航空機の外装材
  • b) 医療機器
  • c) 建築材料
  • d) 家具

解説: PSUは、透明性と高い耐熱性から、特に医療機器での使用が多い。 解答: b) 医療機器

問題3: PEEKの最大の特徴は何か。

  • a) 透明性
  • b) 低コスト
  • c) 高い機械的強度と耐熱性
  • d) 柔軟性

解説: PEEKは、スーパーエンプラの中でも特に高い機械的強度と耐熱性を持つことが特徴である。 解答: c) 高い機械的強度と耐熱性

問題4: LCPが主に使用される分野はどれか。

  • a) 食品包装材
  • b) 電子機器
  • c) 家電製品
  • d) 住宅設備

解説: LCPは、その優れた寸法安定性と耐熱性から、電子機器分野での使用が一般的である。 解答: b) 電子機器

問題5: PBOの特性として最も正しいのはどれか。

  • a) 低い耐熱性
  • b) 高い柔軟性
  • c) 優れた耐摩耗性と耐熱性
  • d) 安価である

解説: PBOは、極めて高い耐摩耗性と耐熱性を持つため、航空宇宙産業などで使用される。 解答: c) 優れた耐摩耗性と耐熱性

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