耐熱性高分子の分子設計におけるガラス転移温度と結晶融解温度の関係

耐熱性高分子材料の設計において、重要な指標として挙げられるのがガラス転移温度(Tg)である。これは高分子材料が加熱された際に非晶質部分の分子運動が活発化し、ガラス状からゴム状へと変化する温度を指す。耐熱性を向上させるためには、Tg​をいかに高く設計するかが鍵となる。

本記事では、耐熱性高分子の設計に関連する物理化学的概念と、その応用手法について解説する。


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ガラス転移温度と結晶融解温度の関係

高分子の耐熱性は、結晶融解温度(Tm​)とガラス転移温度(Tg)との間に次の関係式が成り立つことで説明される。

この式から、Tm​が高い高分子はTgも高い傾向にあると予測される。ここで、Tmは結晶部分が融解する温度であり、次式で表される。

ここで、

  • ΔHm:融解エンタルピー(単位:kJ/mol)
  • ΔSm:融解エントロピー(単位:J/(K·mol))

これらの物理量は、高分子分子間の結合の強さや構造的な秩序性に依存している。


耐熱性高分子の設計方針

高いTmを持つ高分子を得るためには、以下の戦略が有効である。

1. ΔHm​を大きくする

分子間の相互作用を強くすることで、エンタルピー項を増加させる。
具体的には以下の手法が挙げられる:

  • 分子内の結合強度の向上:芳香環や水素結合の導入
  • 分子間相互作用の強化:極性基の導入や結晶性の高い構造設計

2. ΔSm​を小さくする

エントロピー項を抑えることで、結晶状態の秩序を高める。
これを実現するためには、以下が効果的である:

  • 剛直性の高い分子骨格:ポリイミドやポリスルホンなどの剛直な分子設計
  • 側鎖の簡略化:立体障害の少ない構造設計

これらの工夫により、結晶融解温度Tmを高めることが可能となり、結果としてガラス転移温度Tg​も向上する。


具体的な設計例

1. メイン鎖に芳香環を導入

芳香環を持つ高分子(例:ポリカーボネート、ポリイミド)は、分子の剛直性が高く、結晶性を向上させるため耐熱性に優れている。

2. 置換基による分子間相互作用の強化

  • 極性の高い官能基(例:-OH、-COOH)を導入することで、水素結合や双極子相互作用を強化する。

3. 架橋構造の利用

エポキシ樹脂のような架橋性高分子を利用することで、分子間の移動を制限し、耐熱性を向上させる。これにより初期状態で液体として加工可能であるため、成形の自由度も高い。


代表的な耐熱性高分子材料

耐熱性高分子として広く用いられる材料の例を以下に挙げる:

  • ポリイミド(PI)
    極めて高い耐熱性を持つ。宇宙材料や電子基板に使用される。
  • ポリスルホン(PSU)
    耐熱性と成形性のバランスが良い。医療機器や航空機部品に適用される。
  • エポキシ樹脂
    硬化後の耐熱性が高く、構造用接着剤や複合材料のマトリックスとして使用される。

練習問題

問題 1

ガラス転移温度が200°Cの高分子の結晶融解温度を求めよ。ただし、

の関係が成り立つとする。

問題 2

ポリイミドにおいて、耐熱性をさらに向上させるためにはどのような構造設計が有効か。2つ以上の方法を挙げて説明せよ。

問題 3

次の高分子構造のうち、耐熱性が高いと予想されるものを選べ。理由も併記せよ。

  • A: メチル基を多数含む高分子
  • B: 芳香環を多数含む高分子

解答と解説

解答 1

式より、

解答 2

  • 芳香環の導入:分子骨格を剛直化することで耐熱性を向上できる。
  • 水素結合形成基の追加:極性基を増やし分子間相互作用を強化する。

解答 3

選択肢Bが正解。芳香環は分子を剛直化し、結晶性を向上させるため耐熱性が高くなる。


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