シクロヘキサンのいす型配座と置換基の影響
シクロヘキサンはその構造が6員環であり、特有の「いす型配座」をとる。いす型配座は、全ての結合角が理想的な109.5度となるため、ひずみが最小化され、シクロヘキサンの最も安定な構造である。このいす型配座には、2つの異なる位置が存在する。1つは「アキシアル位」(axial)と呼ばれる、環の面から垂直に立ち上がる位置であり、もう1つは「エクアトリアル位」(equatorial)と呼ばれる、環の平面に沿った方向に広がる位置である。置換基がどちらの位置にあるかによって、分子全体の安定性が異なる。
置換基の大きさとエクアトリアル位の優位性
シクロヘキサンに置換基が存在するとき、大きな置換基ほどエクアトリアル位を好む傾向がある。これは、アキシアル位に置かれた場合、1,3-ジアキシャル相互作用と呼ばれる立体反発が起こり、分子のエネルギーが高くなるためである。エクアトリアル位では、このような反発が最小化されるため、安定性が高まる。
trans-1,2-ジメチルシクロヘキサンの構造
trans-1,2-ジメチルシクロヘキサンは、シクロヘキサン環の1位と2位に2つのメチル基が結合しており、これらのメチル基が互いにtrans、すなわち反対方向に配置されている化合物である。置換基の相対配置が trans の場合、1位と2位の置換基はそれぞれ異なる側に向かう。この化合物において、最も安定な配座を考える際には、両方のメチル基が可能な限りエクアトリアル位を占めることが安定性を最大化するための条件である。
trans-1,2-ジメチルシクロヘキサンのいす型配座の選択
シクロヘキサンのいす型配座には、2つのエネルギー的に異なる可能性が存在する。1つの配座では、1位のメチル基がアキシアル位に、2位のメチル基がエクアトリアル位に位置する場合があるが、もう1つの配座では、1位と2位の両方のメチル基がエクアトリアル位に配置される。この場合、1位と2位のメチル基がともにエクアトリアル位にある配座が最も安定である。
エネルギー的安定性の理由
1位と2位の両方のメチル基がエクアトリアル位に位置することで、1,3-ジアキシャル相互作用が回避される。1,3-ジアキシャル相互作用とは、アキシアル位に置かれた置換基と、同じ側の3番目の炭素原子に位置するアキシアル水素原子との間で起こる立体反発である。メチル基は比較的大きな置換基であるため、アキシアル位にあると強い立体反発を引き起こし、分子全体のエネルギーが上昇する。
したがって、最も安定な配座は、両方のメチル基がエクアトリアル位にある配座である。これにより、立体反発が最小化され、全体として分子のエネルギーが低くなり、安定性が高まる。