有機

電荷移動錯体(Charge Transfer Complex, CT錯体)は、電子を放出するドナー分子(D分子)と電子を受け取るアクセプター分子(A分子)の間で電荷移動相互作用が起こることで形成される物質である。

本記事では、具体例としてTTF(テトラチアフルバレン)とTCNQ(テトラシアノキノジメタン)から構成される電荷移動錯体の特徴や、金属様の電気伝導性、および低温で観察されるエルス転移(Peierls Transition)について解説する。


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電荷移動錯体とは

電荷移動錯体は、ドナー分子とアクセプター分子が分子間の電子移動を伴う相互作用を起こすことで形成される化合物である。この結果、ドナー分子からアクセプター分子へ電子が部分的または完全に移動し、電子状態の変化が生じる。この電子の移動が、電荷移動錯体の物理的特性に大きな影響を与える。

↓TTF

↓TCNQ

TTF-TCNQ錯体の構造と特性

TTF-TCNQ錯体は、電荷移動錯体の代表例であり、広い温度範囲で金属的な電気伝導性を示すことが知られている。室温における電気伝導率は

5×102 S cm−1

低温(59 K)では

1×104 S cm−1

に達する。この高い電気伝導性は、分子間の電荷移動とその結晶構造に由来する。


TTF-TCNQ錯体の結晶構造

TTF-TCNQ錯体の結晶構造では、D分子(TTF)の列とA分子(TCNQ)の列が交互に隣接して存在しており、それぞれが独立した列を形成している。このような構造は、電気伝導性を高めるために重要である。この独特の結晶構造により、電子が分子間で効率的に移動できるようになる。


エルス転移(Peierls Transition)

低温において、TTF-TCNQ錯体の電気伝導性は、ある温度を境に急激に減少する。この現象は、エルス転移(Peierls Transition)と呼ばれる。エルス転移では、D分子またはA分子の列内で2分子ずつペアを形成する再配置が起こる。この再配置によって、結晶全体の対称性が低下し、系がより安定化する。これは、固体物理学におけるJahn-Teller効果に似た現象である。

エルス転移は、低温での電気伝導性の急激な減少と金属的性質から絶縁体的性質への転移を説明する重要な概念である。


応用と意義

TTF-TCNQ錯体のような電荷移動錯体は、分子性導体や有機半導体としての応用が期待されている。これらは軽量で柔軟性が高く、従来の無機半導体にはない特性を持つため、次世代のエレクトロニクスやスピントロニクスへの応用が進められている。


練習問題

以下の問題に挑戦し、理解を深めよう。

問題1

電荷移動錯体の形成において、ドナー分子とアクセプター分子が果たす役割を簡潔に説明せよ。

解答例:
ドナー分子は電子を供給し、アクセプター分子は電子を受け取ることで、電荷移動錯体が形成される。


問題2

TTF-TCNQ錯体の結晶構造が電気伝導性に寄与する理由を述べよ。

解答例:
TTFとTCNQが独立した列を形成しているため、電子が効率的に移動でき、電気伝導性が向上する。


問題3

エルス転移における再配置が電気伝導性に及ぼす影響について説明せよ。

解答例:
エルス転移により分子がペアを形成し、結晶の対称性が低下することで電子の移動が制限され、電気伝導性が減少する。


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