ビニルモノマーが重合して生成される高分子の立体配置は、分子の物理的・化学的特性に大きな影響を及ぼす。特に、繰り返し単位(リピートユニット)の立体配置によって、材料の性質や用途が異なるため、これを理解することは高分子科学において重要である。
本記事では、ビニル高分子の四連子(テトラッド)での立体配置の種類と、それを「m」と「r」の記号で表す方法について詳しく解説する。
二連子(ダイアッド)立体配置の基本
ビニルモノマーの重合による高分子の立体配置の最小単位は、隣り合う2個の繰り返し単位(ダイアッド)である。ダイアッドの立体配置は、隣り合う炭素原子間の立体的な相関関係によって決まり、以下のように分類される。
- メソ(m):隣接する繰り返し単位の立体配置が一致する場合。
- ラセモ(r):隣接する繰り返し単位の立体配置が異なる場合。
このメソ(m)とラセモ(r)の表記法は、IUPACによる2020年の更新に基づき再定義され、現在も使用可能である。mは立体配置が維持されること(maintained)、rは立体配置が反転すること(reversed)を表す。
四連子(テトラッド)立体配置の組み合わせ
四連子(テトラッド)において、4つの繰り返し単位の立体配置によって形成される組み合わせは、mとrの組み合わせによって以下の6種類が存在する。
1. mmm
すべての二連子がメソ(m)で、隣接する繰り返し単位の立体配置がすべて一致している場合。
2. mmr
最初の二連子がメソ(m)、次の二連子もメソ(m)、最後の二連子がラセモ(r)である場合。これは、最初の3つの単位が一致し、最後の単位のみ異なる配置である。
3. mrm
最初の二連子がメソ(m)、次の二連子がラセモ(r)、最後の二連子がメソ(m)である場合。中央の配置だけが異なる。
4. mrr
最初の二連子がメソ(m)で、残りの2つの二連子がラセモ(r)である場合。最初の単位だけが他と異なる。
5. rrm
最初の二連子がラセモ(r)で、次の二連子もラセモ(r)、最後の二連子がメソ(m)である場合。最後の単位のみが他と異なる。
6. rrr
すべての二連子がラセモ(r)で、隣接する繰り返し単位の立体配置がすべて異なる場合。
以上の6種類が四連子(テトラッド)の立体配置の組み合わせである。
四連子立体配置の意義
四連子の立体配置は、分子全体の立体規則性(タクチシティ)に影響を与え、高分子材料の物理的特性を大きく左右する。例えば、等規則性(アイソタクティック)や無規則性(アタクティック)の高分子は、立体配置が異なるため、溶解性や結晶化度が異なり、応用分野も異なることが多い。こうした立体配置の理解は、材料の設計や機能性の向上に重要な知見をもたらす。
練習問題
次に、四連子の立体配置に関する理解を深めるための練習問題を用意する。
問題1
四連子の立体配置「mmr」が持つ特徴について説明せよ。
解答・解説
「mmr」は、最初の二連子がメソ(m)、次の二連子もメソ(m)、最後の二連子がラセモ(r)である。この場合、最初の3つの単位は立体配置が一致しており、最後の単位のみが異なる立体配置となっている。この配置の例は、部分的な等規則性を持つ高分子として考えられる。
問題2
以下の四連子立体配置のうち、すべての二連子がメソであるものを選べ。
- mmm
- mrm
- rrm
解答・解説
正解は1の「mmm」である。この配置では、すべての二連子がメソ(m)であり、隣接する繰り返し単位の立体配置が完全に一致している。
問題3
四連子立体配置のうち、「r」から始まる立体配置をすべて列挙せよ。
解答・解説
「r」から始まる四連子の立体配置は以下の通りである。
- rrm
- rrr これらの配置では、最初の二連子がラセモ(r)となっており、他の配置が続く形である。