
1. 光Barton反応の概要
光Barton反応は、1960年にBartonらによって初めて報告された光化学反応である。本反応では、光照射によって亜硝酸エステル(R-ONO)がRO・とNO・に分解し、さらにRO・が分子内で1,5位の水素原子を引き抜くことでアルキルラジカル(R・)が生成される。
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その後、このアルキルラジカルが酸素と反応して分子内転位を経てヒドロキシル化を起こし、最終的にヒドロキシ化誘導体を得る化学プロセスである。
この特異な分子内転位反応は、特にステロイド型活性化合物の合成において頻繁に利用されている。
2. 光Barton反応の反応機構
2.1. 亜硝酸エステルの光分解とアルキルラジカル生成
光照射によって亜硝酸エステルのO-N結合が均一開裂し、RO・およびNO・の二つのラジカルが生成される。特に、RO・は分子内で1,5位の水素原子を選択的に引き抜き、アルキルラジカル(R・)を形成する。
この過程は、高い位置選択性を持ち、反応効率が優れていることから、多様な基質に対して適用可能である。
2.2. 1,5-水素移動による分子内転位
RO・によって引き抜かれる水素原子は、分子内で1,5位に位置する水素に限定される。これは、分子の立体構造によって決定され、1,3-アキシアル位にある水素は反応しやすいが、主に1,5-水素移動が支配的である。
このため、光Barton反応は立体選択的に進行し、複雑な骨格を持つ分子でも高い収率で目的の化合物を得ることが可能である。
2.3. ヒドロキシル化による最終生成物の形成
生成されたアルキルラジカル(R・)は、酸素と反応して中間体のペルオキシラジカルを形成し、これが再配列を経て最終的にヒドロキシル化される。これにより、ヒドロキシ基を持つ化合物が得られる。
この過程では、脱離したNO・が溶液中に逃げず、分子内で再利用されることが多い。これによって、フリーラジカル経路でありながら高い収率と再現性が実現される。
3. 光Barton反応における重要な特性
光Barton反応の特徴として、以下の点が挙げられる:
- 分子内転位による高い位置選択性: 1,5位の水素移動が主に進行するため、立体構造が反応の選択性を決定する。
- フリーラジカル機構の活用: ラジカル中間体を経由することで、多様な化学骨格に適用可能である。
- 酸素の関与による効率的なヒドロキシル化: アルキルラジカルの酸化により、直接的にヒドロキシ基を導入できる。
- 応用の広さ: 特にステロイド型化合物の合成では、構造の複雑性に関わらず高収率で目的物を得ることができる。
4. ステロイド型活性化合物合成への応用
4.1. Bartonらによる初期研究とミリセリンの合成
Barton反応が最初に報告された際、その応用としてステロイド活性化合物への分子内転位反応が示された。1968年には、Bartonらがミリセリンの合成に成功し、その合成プロセスにおいて光Barton反応が重要な役割を果たすことを示した。
この研究は、ステロイド骨格を持つ複雑な分子でも高い選択性と効率でヒドロキシル化を行えることを証明した。
4.2. Konokieらによる中間体合成の改良
1997年には、Konokieらが従来のBarton反応を改良し、中間体の合成における収率を80%以上に向上させた。特に、酸素を用いた条件下では、ヒドロキシムの代わりに硫酸塩を生成することができ、この手法は多様なステロイド化合物の合成に応用されている。
この改良により、プロセスの再現性と収率が飛躍的に向上した。
4.3. Coreyによるアジラン誘導体を用いた新手法
さらに、Coreyはアジラン誘導体を用いることで、光Barton反応を応用した新たな合成手法を開発した。この方法では、NO・がメチル基ではなくステロイド骨格のメチレン基から水素を引き抜くことで、より多様な骨格に対応可能となった。
この技術革新は、医薬品や生理活性物質の合成において極めて有用であることが実証されている。
5. まとめと今後の展望
光Barton反応は、亜硝酸エステルの光分解によって分子内転位を実現し、立体選択的かつ高収率でヒドロキシル化誘導体を得ることができる重要な化学プロセスである。
特に、ステロイド型活性化合物の合成においては、その高い位置選択性とフリーラジカル機構が応用の幅を広げている。
今後は、さらに複雑な分子構造に対応可能な新たな光Barton反応の開発や、工業規模での適用に向けたプロセスの最適化が期待される。
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