
ブロック共重合体が規則構造を形成する理由
ブロック共重合体がなぜ相分離構造を持つのかという問題は、自由エネルギーの比較を通じて説明できる。
すなわち、無秩序に混ざり合った状態と、同じブロック鎖同士が集まった状態とを比較したとき、後者の方が自由エネルギーが低く、より安定であるという事実に起因する。
このようにして相分離構造が形成されるが、どのような条件下でどのような規則構造が現れるかは、その後の記述に委ねられる。
ミクロ相分離の出発点とイメージ形成
ミクロ相分離の理解に向け、まずはAB二元ブロック共重合体が希薄溶液中に単独で存在する状態から議論を開始する。
ここで、AおよびBの両成分間における相互作用パラメーターαは正であり、かつ大きいと仮定する。両成分が裸の状態で接触すると大きなエネルギー的な不利が生じるため、これを回避すべく溶媒分子が介在し、各セグメントを選択的に溶媒和する。
良溶媒中では、このような溶媒和効果がABセグメントの直接的な接触を防ぎ、ブロック共重合体は同じ鎖長のホモポリマーと類似の形態、すなわち図(希薄溶液中)に示されるような球状のランダムコイル状態を取る。


濃度変化による構造変化と相分離の進行
溶媒濃度を高めていくと、溶媒分子が次第に少なくなり、異種高分子間の反発力の影響が顕在化する。
これにより分子内での相分離が始まり、同種成分が自発的に集合を始める。図(濃厚溶液中)に示されるように、AおよびB成分がそれぞれの領域に局在化し、分子内相分離が生じる。この状態は、濃度上昇とともに顕著になり、最終的にはバルク中において明瞭なミクロ相分離構造、すなわち図(ミクロ相分離)に示されるような周期構造が出現する。
この構造では、A-B-B-A-A-Bのようにブロックが順序正しく交互に配置され、2分子長ごとの周期構造が形成される。このような周期性は、分子の繰り返しによって空間に規則性をもたらす要因となる。
ミクロ相分離をもたらす臨界条件
Leiblerの理論によれば、AB二元ブロック共重合体がミクロ相分離を起こすためには、両成分AおよびBのモノマーの大きさが等しく、かつ相互作用パラメーターχと共重合体の重合度Nの積が以下の条件を満たす必要がある。
χN = 10.5
この臨界条件に達すると、系は相分離を起こし、図(ミクロ相分離)のような構造が発現する。したがって、このχN = 10.5という数値は、ブロック共重合体におけるミクロ相分離の発現を判定するための臨界値として広く使用される基準である。
ブロック共重合体の特異性と規則構造形成の要因
上記のχNの臨界値は、ホモポリマーブレンドと比較しても顕著に大きい。これは、ブロック共重合体が1本の分子内でAとBがつながっているため、相分離時に完全な相分離が阻害されるからである。
この制限があるにもかかわらず、ブロック共重合体はバルク状態で非常に秩序だったミクロ相分離構造を取りやすい。これは、分子内でのつながりが、構造の周期性を自発的に導く性質を持つためである。
まとめ:構造設計における応用可能性
ブロック共重合体のミクロ相分離現象は、自由エネルギーの最小化を駆動力とし、相互作用パラメーターおよび濃度条件に応じて多様な構造相を形成する。
これにより、ナノスケールで規則的な構造を設計可能であり、材料科学やナノテクノロジーにおける応用が期待されている。特に、構造の周期性と選択性を活かしたデバイス材料や分離膜などへの展開が進行中である。
