ケリー・デービス(Kelly-Davis)の降伏条件とは?

基礎知識

高分子材料とは何か

高分子材料(ポリマー)は、非常に多くの分子が連結して構成された巨大な分子であり、日常生活から産業用途まで広く使用されている。たとえば、プラスチックやナイロン、ポリエステルなどがその典型例である。

これらの材料は、分子が鎖状に長く連なった構造をしており、分子鎖がどのように配向(並び方)しているかによって、その力学特性が大きく変わる。特に、力を加えたときの強さや変形しやすさといった性質は、分子の配列状態に強く依存している。

繊維強化複合材料とは

繊維強化複合材料とは、ガラス繊維や炭素繊維のような高強度な細い繊維を、樹脂などの母材(マトリックス)に埋め込んだ構造を持つ材料である。

このような材料は、繊維が高い強度や剛性を提供し、母材が変形の吸収や衝撃緩和などの補助的な役割を担う。

たとえば、自転車のフレームや航空機の部品、自動車のボディ構造に使用される複合材料は、軽量で高強度という特性を持ち、設計の自由度と性能向上を両立している。

なぜ繊維の向きが重要なのか

繊維強化材料において、繊維がどの方向に配置されているか(配向)は極めて重要である。

なぜなら、繊維の強さはその長手方向に最も発揮されるからである。たとえば、繊維が引張り方向と一致していれば、その材料は最大限の強度を発揮する。

一方で、繊維が斜めや垂直方向に配置されている場合には、繊維が応力を十分に負担できず、材料全体としての強度が低下する。このような異なる配向条件下での強度の違いを正確に予測することが、構造設計において極めて重要となる。

降伏とは何か:材料が壊れ始めるポイント

「降伏」とは、材料が元の形に戻れなくなるような変形を始める境界点を指す。金属や高分子材料など、すべての構造材料にはこの降伏点が存在し、それを超えると材料は塑性変形や破壊へと進行する。

繊維強化材料の場合、降伏は繊維自体の破断、母材のせん断変形、あるいはその界面の剥離によって生じる。

このため、降伏を正確に予測するためには、材料内部の力の分布と構造の相互作用を理解する必要がある。

Kelly-Davis式が必要とされる理由

通常の材料では、降伏応力は一方向的に記述できるが、繊維強化材料のような異方性構造体では、単純なモデルでは不十分である。

Kelly-Davis式は、繊維と母材が異なる役割を果たす複雑な構造に対し、それぞれの寄与を考慮しながら降伏応力を記述できる点で優れている。

特に、角度によって異なる降伏メカニズム(繊維破断、母材せん断、界面剥離)を定量的に取り入れることができるため、設計や解析においてより現実的で信頼性の高いモデルとなる。

ケリー・デービスの降伏条件の概要

繊維強化複合材料に対して提案された降伏条件の一つに、ケリー・デービス(Kelly-Davis)式がある。この降伏条件は、特に繊維の配向方向に近い角度での引張りにおいて、材料の降伏挙動を的確に説明するために用いられる。

すなわち、繊維に作用する応力が繊維の強度に達したときに降伏が生じるという仮定に基づき、降伏応力σ₀は次のように定義される:

  σ₀ = σ・cos²θ  (式1)

ここでθは繊維の配向方向と引張り方向の間の角度であり、cos²θは繊維方向への応力成分の寄与を表す。材料の変形が進むにつれて、配向繊維が負担する応力がその破断強度に達すると、材料全体として降伏が生じる。

降伏応力における母材のせん断の寄与

さらに、中間の角度領域では、母材のせん断降伏が支配的になる。この領域では、次の関係式が用いられる:

  σ₀・cosθ = τ  (式2)

ここでτは母材のせん断降伏強度を示す。このように繊維と母材の役割分担を考慮することで、繊維と母材の界面やその力学的相互作用が支配する複合的な破壊メカニズムを捉えることが可能となる。

また、繊維と垂直方向では繊維と母材の引張り破壊によって降伏が生じるとされ、その関係は以下のように定式化される:

  σ₀・sin²θ = σ⊥  (式3)

ここでσ⊥は繊維と垂直方向における界面強度である。

配向分子鎖構造と界面強度の評価手法

異方性高分子では、繊維を配向分子鎖とみなすことで、界面強度はファンデルワールス力のような二次結合力に依存するものと考えられる。

この観点から、繊維と母材の応力伝達機構を明示的にモデル化するため、ケリー・デービス式が有効な評価手法とされている。

実験との比較と数値モデルの妥当性

たとえばポリプロピレン(PP)に関して、比較が行われている。

θ(繊維配向角)と降伏応力との関係が、実験データと数式による予測との一致度が評価されている。

式(1)による計算との比較

降伏応力は、θ = 0°のときに約255 MPaという高い値を示すが、角度が大きくなるにつれて急激に低下し、θ = 90°ではほぼ一定の値に収束する。

これはcos²θの寄与が減少し、繊維の寄与が消失するためである。

Kelly-Davisによる計算との比較

ケリー・デービス式に基づく計算では、以下のような特徴が確認できる

  • θ = 0°での降伏応力:σ・cos²θ = 255 MPa
  • θ = 90°での降伏応力:σ・sin²θ = 29 MPa
  • 中間角度領域でのせん断降伏:σ・sinθ・cosθ = 25 MPa  (式4)

これにより、ケリー・デービスのモデルは単なるcos²θモデルよりも、実験結果に対してより良好な一致を示すことが明らかである。

結論:複合材料設計におけるKelly-Davis式の有用性

このように、Kelly-Davisによる降伏条件は、繊維と母材の相互作用を適切に捉えた力学モデルであり、複合材料の設計・解析において非常に有用である。

とりわけ、配向性高分子のような異方性材料においては、単純なcos²θ則では捉えきれない挙動を高精度で予測可能とする点において、その有効性が高く評価されている。

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