
火はなぜ燃え続けるのか?—発火温度と化学反応の持続性
火とは高速なエネルギー放出反応である
火は、熱と光という形でエネルギーを放出する速い化学反応である。この現象の本質は、可燃物と酸素が引き起こす酸化反応である。例えば、紙や木、油などの可燃物は、空気中の酸素と反応して発熱・発光を伴う燃焼を起こす。
常温では、これらの可燃物は酸素と反応しにくく、たとえ反応しても非常にゆっくりと進行する。ところが、マッチの炎などで熱を加えると、可燃物と酸素との反応速度が急激に高まり、燃焼が始まる。これは、反応速度が物体の温度に依存するという化学反応の基本的特性に基づいている。
豆知識:発火温度と引火点の違い
発火温度とは、外部から火をつけなくても、物質が自然に燃え始める最低温度である。一方、引火点は、火を近づけたときにその物質の蒸気が引火する最低温度を指す。発火温度は引火点よりも高く設定される。
燃焼の持続条件は「発火温度以上の温度」と「酸素供給」
物質が燃え続けるには、周囲の温度がその物質の発火温度以上でなければならない。この臨界温度を下回ると、化学反応が停止し、火は自然に消えてしまう。逆に、炎の近くの物質の温度が上昇すると、そこでも新たに反応が始まり、燃焼が連鎖的に広がっていく。このように、温度と酸素供給という2つの要因が燃焼の持続にとって不可欠である。
水で火が消える理由とは?—3つの消火メカニズムを化学的に解説
酸素の供給断絶、温度の低下、熱源との分離
火を消すには、以下の三つのいずれか、あるいはその組み合わせを行う必要がある。
- 酸素の供給を断つ
- 可燃物の温度を発火温度以下に下げる
- 可燃物を熱源から切り離す
水を用いた消火は、これらすべての要素に効果を及ぼす極めて効率的な方法である。水は蒸発する際に大量の熱を吸収する(潜熱)。この作用により、可燃物の温度が急激に下がり、燃焼が停止する。
水蒸気と水膜が酸素の供給を遮断
また、水が蒸発すると水蒸気が発生し、さらに残った水が可燃物の表面に水膜を形成する。これにより、酸素が可燃物に触れるのを防ぎ、反応の継続を阻止する。さらに、ホースなどから勢いよく噴出された水流は、燃焼中の可燃物を吹き飛ばし、火源から引き離す物理的効果ももたらす。
豆知識:1gの水が蒸発する際に吸収する熱量は約2260J(ジュール)
これは、同じ量の氷を0℃から100℃まで加熱するのに必要な熱量の約5倍にも相当する。このような高い熱吸収能力こそが、水を非常に優れた消火剤たらしめている。
水が使えない火災もある—火災の種類と適切な消火法
電気火災には水は厳禁
水はすべての火災に万能というわけではない。特に、電気器機の火災には注意が必要である。水にはさまざまな物質が溶け込んでおり、電気を通す性質(電導性)がある。そのため、通電中の電気機器に水をかけると、感電事故の危険がある。
このようなケースでは、水の代わりに非電導性の粉末固体を用いた導体性消火剤が推奨される。これらの消火剤は、酸素の供給を断ち、火の進行を迅速に抑えることが可能である。
豆知識:二酸化炭素(CO₂)消火器の特徴
CO₂は気体のまま放出され、酸素濃度を低下させることで火を消す。ただし、冷却効果は弱いため、高温の可燃物に対しては再発火の可能性がある。
油火災にも水は不適切
ガソリンや灯油といった引火性液体の火災も、水での消火が推奨されないケースである。水は油よりも比重が高いため、油の下に沈み込んでしまい、油が表面に浮いたまま燃焼を続ける。その上、水が加熱されて瞬時に蒸発すると、油が飛び散って火が拡大する危険性すらある。
このような火災には、泡消火器が最適である。泡が油の表面を覆うことで、酸素を遮断し、かつ飛散を防ぐことができる。
家庭用消火器の工夫と選び方—粉末固体消火器の仕組み
加圧容器によって噴射される粉末が火を覆う
家庭用の小型消火器には、金属容器に粉末固体を加圧ガスとともに封入したタイプが広く使用されている。この粉末消火器は、二酸化炭素やリン酸アンモニウムなどの薬剤を含み、火元に噴射することで酸素の供給を遮断し、燃焼を停止させる。
豆知識:ABC消火器の「ABC」とは何か?
- A火災:木材や紙などの普通火災
- B火災:油やガソリンなどの液体火災
- C火災:電気設備による火災
これらすべてに対応できる消火器が「ABC消火器」と呼ばれている。
また、最近では一部の消火器においてエアゾール型やスプレー型の軽量なものも登場しており、台所や車載用として普及しつつある。
結論:火災の種類に応じた正しい知識と行動が被害を最小限にする
水は非常に有効な消火手段であるが、火災の種類によっては逆効果となる危険もある。火の性質は、化学的・物理的な条件によって大きく異なるため、それぞれに応じた適切な対処が不可欠である。
火災の初期対応においては、慌てず、冷静に火の種類を判断し、水を用いるべきか、あるいは専用の消火器を用いるべきかを理解しておくことが、被害を最小限に抑える最善の策となる。
火の性質を知り、水の役割を理解することは、火災という緊急事態に立ち向かう第一歩である。