「高分子」クリープ現象の数理モデルと応力・ひずみの関係

クリープ現象とは何か

物体に一定の応力を与えたまま放置すると、時間の経過とともに変形が進行する現象が生じる。この現象はクリープ(creep)と呼ばれ、特に高温下や長時間の荷重作用下で顕著に現れる。

クリープは一時的な変形ではなく、時間とともに増加する永久的な変形であるため、材料設計や構造解析において極めて重要な課題である。

応力とひずみの基本的関係

クリープ現象において、応力とひずみの関係は次の式で表される

ここで、ε(t) は時間 t におけるひずみ、σ0 は定常応力、C(t) は時間依存のクリープコンプライアンス(creep compliance)である。クリープコンプライアンスは、与えられた応力に対する材料のひずみ応答を表す関数である。

フォークトモデルとその数式表現

クリープコンプライアンス C(t) は、フォークトモデル型の関係式として以下のように表される

この式における E は弾性係数、λ は遅延時間(retardation time)である。遅延時間 λ は、ひずみ ε(t) が平衡値 σ0/E の 1/e となる時刻を示し、クリープの進行速度を定量化する指標として解釈される。

三要素モデルによるクリープ解析

図に示すように、フォークトモデルにスプリング要素を直列に結合させた三要素モデルを考慮すると、次のような応力とひずみの関係が得られる

ここで、E1 および E2 は直列スプリングおよび並列バネ・ダンパー系に対応する弾性係数である。この関係式は、時間ゼロにおいて瞬間的にひずみが σ0/E1​ 発生し、その後徐々に σ0/E2​ の分だけひずみが増加していく様子を示している。

一般化されたフォークトモデル

さらに複数のフォークト要素を直列に組み合わせた一般化されたフォークトモデルを考えると、全ひずみは各要素ひずみの和として以下のように表される

この関係から、クリープコンプライアンス C(t) は次のように定義される

ここで Ci=1/Ei である。これは、各要素の弾性特性と遅延時間に基づいて、クリープ応答を重ね合わせたものである。

スペクトル関数による連続表現

さらに、λi​ の連続分布を仮定すると、コンプライアンス関数 C(t) は以下のような積分形式で表される

このとき C(λ) はクリープ遅延時間の分布スペクトル関数(spectral distribution function of creep retardation time)と呼ばれ、材料内部に存在する多様な緩和機構の統計的分布を反映している。

図による視覚的理解

  • 図(三要素モデル)では、即時応答(弾性変形)と時間依存応答(粘性変形)の両方を含んだ構成が示されている。スプリング E1​ は瞬間的なひずみ、並列構造の E2​ と粘性素子 η は時間依存のひずみを表す。
  • 図(一般化モデル)では、複数のフォークト要素が直列に並べられ、各ユニットが独自の弾性係数 Ei​ および粘性係数 ηiを持ち、より複雑なクリープ挙動を表現可能であることを示している。

結論

本稿では、クリープ現象の物理的意味およびその数理モデルについて詳述した。

単一のフォークトモデルから始まり、三要素モデル、さらに一般化されたモデルや連続スペクトル関数への展開を通じて、実材料の複雑な時間依存変形挙動を理論的に説明する体系が構築されている。

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