
1. 多環芳香族炭化水素の基本特性
多環芳香族炭化水素(PAHs)は、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレンなどに代表される。これらの化合物は以下のような特徴的な光化学的性質を持つ。
(i) 蛍光およびりん光特性を示す。
(ii) 光誘起光化学反応を引き起こす。
(iii) 三重項増感剤として機能する。
(iv) 光化学反応の原料として用いられる。
2. PAHsの蛍光およびりん光特性

PAHsは、HOMOとLUMOのエネルギー差が小さく(2.8~4.5 eV)、紫外線や可視光領域の波長(200~450 nm)を吸収する。吸収後、基底状態から励起状態へと遷移し、電子移動を引き起こす。
例えば、ピレンは450~500 nmで蛍光を発し、アントラセンは360~420 nmの範囲でモノマー蛍光を示す。一方、アントラセンの光二量化反応は効率的に進行し、発光特性に影響を及ぼす。
3. 三重項増感剤としての応用
PAHsは、光化学反応の三重項増感剤としても利用される。特にナフタレンの三重項エネルギー(E_T = 255 kJ mol⁻¹)は、他の化合物のエネルギー移動を促進する。三重項状態のPAHsは、光エネルギーを吸収して他の分子にエネルギーを移動し、光触媒作用を発揮する。
4. 光誘起電子移動反応
PAHsは、光照射により電子を受容体(D⁺)や供与体(ArH⁻)に移動させることができる。この特性を利用し、PAHsは正負両方の電子輸送剤として機能し、光電子移動反応を促進する。
5. フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンの光化学
フラーレン(C₆₀)、カーボンナノチューブ、グラフェンも特異な光学特性を示し、PAHsと同様に光化学的に利用される。
(1) フラーレン(C₆₀)の光応答特性

C₆₀は、190~410 nmの範囲で強い吸収を示し、HOMO-LUMO間の狭いエネルギー差を持つ。LUMOがHOMOに対して2つに縮重しており、寿命は短い(τ = 0.065~1.45 ns)。
また、三重項状態の寿命は20~140 μsである。さらに、酸化還元特性が優れており、電子受容体として利用される。特にSCE基準で-0.2 Vの還元電位を持ち、光触媒や電荷分離材料として応用可能である。
(2) カーボンナノチューブの光学特性
単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)は、特定の波長領域で吸収を示し、特に400~600 nm(π-π* 遷移)、600~950 nm(第1励起状態のS₂遷移)、1100~1600 nm(半導体の第1遷移)で顕著な吸収ピークを持つ。
電子移動応答が優れており、電極材料や光電子デバイスへの応用が期待される。
(3) グラフェンの光化学的特性
グラフェンは炭素原子の六角形格子から成る2次元シート構造を持ち、電気伝導性に優れる。HOMOとLUMOが縮重した構造を持ち、半導体特性は示さないが、適切なドーピングによりバンドギャップを調整可能である。
また、酸化グラフェンは酸素官能基を持ち、光照射によって酸化還元反応を引き起こすことができる。この特性により、光電池や光触媒への応用が検討されている。
6. まとめ
多環芳香族炭化水素(PAHs)は、優れた光学特性を持ち、蛍光、りん光、光電子移動反応など多様な光化学的挙動を示す。さらに、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料も、独自の光学特性を活かして、エネルギー変換、光触媒、電子デバイスなどの分野で広く利用されている。
