高分子の結晶化と構造評価「WAXDおよびSAXS」について

高分子の結晶化とは何か

高分子が通常の条件下で結晶化する場合、それは溶融状態もしくは溶液中において糸まり状、すなわち複雑に絡まり合った状態から始まる。

この過程において高分子鎖は、分子鎖長よりもはるかに短いナノメートル(nm)スケールで折りたたまれ、整列することで結晶を形成する。

興味深いのは、この結晶化が完全に進むわけではなく、結晶化度が50%程度にとどまる高分子が多く存在する点であり、これらは半結晶性高分子と呼ばれる。


結晶構造の特徴と形成メカニズム

半結晶性高分子が構成する結晶構造は、基本的に分子鎖がモノマー単位で繰り返し並ぶことで特定の周期構造を持ち、これらの分子鎖同士が互いに平行に配列することで成立する。ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、例外も存在する。

このようなnmオーダー、具体的には約1nm程度の周期的配列を正確に解析するためには、配列周期よりも短い波長を持つ解析手法が必要となる。そのため、X線、中性子線、電子線といった短波長の放射線を用いた回折パターンの解析が有効である。


高分子の結晶構造評価法:WAXDの活用

高分子の結晶構造評価において、重要な指標として以下の三点が挙げられる:

  • 結晶化度
  • 結晶弾性率
  • 結晶配向分布

これらの評価には、広角X線回折(Wide Angle X-ray Diffraction, WAXD)が広く利用される。

WAXDでは、X線の回折角度が広いため、結晶内の微細構造や分子間距離の解析に優れており、特にnmオーダーの配列をもつ高分子に対して有効である。


ラメラ構造とSAXSによる非晶・結晶層の評価

結晶化度が5割程度に達する半結晶性高分子を溶融状態から冷却・固化することで得られる試料中には、薄板状結晶(ラメラ)と非晶層が交互に積層した構造が形成される。このような構造はラメラ積層構造と呼ばれ、平均周期は数nmから数十nmに達する。

この積層周期に加え、各結晶層および非晶層の厚さの詳細な解析には、小角X線散乱(Small Angle X-ray Scattering, SAXS)が用いられる。

SAXSは、広角X線回折よりもさらに低角度での散乱を捉えることで、より大きな構造単位の評価を可能とする。

SAXSについて


高分子材料の構造解析において、結晶−非晶の積層構造、すなわちラメラ構造の理解はきわめて重要である。

ラメラ構造はnmスケールの周期構造を持ち、X線小角散乱(SAXS)を用いることでその長周期Lを精密に決定することが可能となる。本記事では、与えられたSAXS像およびその条件に基づき、ブラックの式と幾何学的関係から長周期を求める手法を詳述する。

ラメラ構造の基礎知識と散乱理論

結晶−非晶の積層構造とは何か
高分子結晶におけるラメラ構造とは、結晶層と非晶層が交互に積層した構造であり、その繰り返し単位の厚みを「長周期L」と呼ぶ。

この周期Lは数nmから数十nmのスケールにあり、1nm以下の結晶格子間隔に比べて桁違いに大きい。

[小角X線散乱とブラッグの式]


小角X線散乱(SAXS)は、散乱角2θが0.1°〜1°程度の小角領域で観測される散乱を指し、このときブラッグの式

L = λ / (2sinθ)

を用いることで、長周期Lを決定することができる。θは散乱角の半分であり、X線の波長λと散乱角2θから直接的に求まる。

測定条件と与えられた情報

実際の測定の想定

  • 使用したX線:CuKα線(波長λ = 0.1542 nm)
  • カメラ長:D = 94.0 cm = 940 mm
  • 検出器上の散乱リング直径:2r = 17.4 mm → r = 8.7 mm

【散乱角2θの求め方とLの計算】

散乱角の幾何的導出
散乱角2θは、SAXS像の散乱リング半径rとカメラ長Dから次式により計算される。

2θ = tan⁻¹(r / D)
ここでは、r = 8.7 mm, D = 940 mmであるため、

2θ = tan⁻¹(8.7 / 940) ≈ tan⁻¹(0.00926) ≈ 0.530°

となる。

長周期Lの計算
得られた散乱角からブラッグの式を用いて長周期Lを求める。

θ = 0.530° / 2 = 0.265° ≈ 0.00463 rad
sinθ ≈ θ(小角近似)より、sinθ ≈ 0.00463

したがって、

L = λ / (2sinθ) = 0.1542 nm / (2 × 0.00463) ≈ 16.7 nm

このようにして、ラメラ構造の長周期Lが16.7 nmであることが決定される。

ラメラ構造解析における注意点

補正と分布幅の影響
実験的に正確なLを求めるためには、ローレンツ補正や装置由来の補正を施したピーク位置の決定が重要である。また、散乱ピークがブロードである場合、それは結晶−非晶層の厚みに分布が存在することを意味し、単純なラメラ構造モデルでは表現できない複雑性を含む。

[ランダム配向体の扱い]


サンプルがランダムな方向を持つ場合でも、平均的なラメラ構造情報をSAXSにより抽出できる点は、手法の大きな利点である。


結論:複雑な高分子構造の理解に向けた多角的アプローチ

本節では、高分子の結晶化挙動とそれに関連する構造解析手法としてWAXDおよびSAXSを取り上げた。結晶化の度合いや構造配置、さらには配向や層状構造の解析を通じて、材料特性の最適化や新素材開発への応用が期待される。

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