スチレン、2-シアノアクリル酸メチル、メタクリル酸メチルのアニオン重合性の順序について

アニオン重合は、アニオン(負の電荷)を持つイオン性開始剤が、電子求引性の高いモノマーを開裂してポリマー化する反応である。この重合反応においては、モノマーの構造や電子配置が大きな役割を果たし、特に置換基の電子求引性が高いほどアニオン重合性も高くなるとされる。

スチレン、2-シアノアクリル酸メチル、メタクリル酸メチルの3つの共役モノマーをアニオン重合性の高い順に並べると以下のようになる。

2-シアノアクリル酸メチル > メタクリル酸メチル > スチレン

この順序の理由について、各モノマーの構造と電子求引性の観点から詳細に解説する。


2-シアノアクリル酸メチルのアニオン重合性が最も高い理由

1. 構造と電子求引基

2-シアノアクリル酸メチル(2-cyanoacrylate)の構造には、ニトリル基(-CN)とカルボキシル基(-COOCH₃)という2つの強い電子求引基が含まれている。このため、ビニル基上の電子密度が著しく減少し、陰イオン開始剤が付加しやすくなる。電子求引性の高さにより、アニオンが安定化されるため重合が起こりやすくなる。

2. 電子求引性の影響

2-シアノアクリル酸メチルのシアノ基(-CN)は、非常に高い電子求引性を持つ。さらに、カルボキシル基のエステル部分(-COOCH₃)も電子を引く性質があり、これらが連続していることでアニオン安定化効果が強化され、反応性が極めて高まる。このような構造のため、2-シアノアクリル酸メチルは非常に高いアニオン重合性を示す。


メタクリル酸メチルのアニオン重合性が2番目である理由

1. 構造と電子求引基

メタクリル酸メチル(methyl methacrylate, MMA)は、カルボキシル基のメチルエステル(-COOCH₃)を持つモノマーであり、このエステル基が電子求引性として働く。2-シアノアクリル酸メチルほどではないが、エステル基の影響で電子密度が減少し、アニオン開始剤に対して適度な反応性を示す。

2. 電子求引性の程度

メタクリル酸メチルは2-シアノアクリル酸メチルよりも弱い電子求引性を持つが、エステル基によりビニル基上の電子密度が低下しており、アニオン重合が進みやすい状態である。しかし、ニトリル基を持つ2-シアノアクリル酸メチルほど電子求引効果は強くないため、アニオン重合性は中程度に位置する。


スチレンのアニオン重合性が最も低い理由

1. 構造と電子分布

スチレン(styrene)は、ベンゼン環にビニル基が結合した構造を持ち、電子求引基が存在しないため、ビニル基の電子密度は比較的高い。ベンゼン環はむしろ電子供与性であり、アニオン開始剤との反応性が抑えられる。このため、スチレンのアニオン重合性は他の2つのモノマーに比べて低くなる。

2. 電子求引性が低いための影響

スチレンのベンゼン環は、π電子が豊富であり、重合において電子密度を減少させる効果が少ない。このため、スチレンはアニオン開始剤に対する親和性が低く、アニオン重合性は低い。


まとめ:アニオン重合性の順序の理由

以上をまとめると、アニオン重合性の高い順に「2-シアノアクリル酸メチル > メタクリル酸メチル > スチレン」となる理由は、各モノマーの置換基による電子求引性の違いに基づいている。特に、シアノ基とカルボキシル基を持つ2-シアノアクリル酸メチルは電子求引効果が最も強く、重合性も高くなる。メタクリル酸メチルはエステル基による中程度の電子求引効果を示し、スチレンは電子供与性のベンゼン環を持つため重合性が最も低い。


理解を深める練習問題

以下の練習問題で、アニオン重合性について理解を深めよう。

問題 1

次のモノマーの中で、アニオン重合性が最も高いものを選べ。

  1. アクリル酸メチル
  2. メタクリル酸メチル
  3. スチレン

解答と解説
アクリル酸メチル。アクリル酸メチルは、メタクリル酸メチルよりも電子求引性の高いエステル基を持ち、メタクリル酸メチルよりもアニオン重合性が高い。

問題 2

アニオン重合において、シアノ基の役割を簡潔に説明せよ。

解答と解説
シアノ基は電子求引基として働き、ビニル基の電子密度を低下させてアニオン開始剤に対する反応性を高める。これにより、アニオン重合性が向上する。

問題 3

スチレンがアニオン重合性を示しにくい理由を説明せよ。

解答と解説
スチレンは電子供与性のベンゼン環を持ち、電子密度が高いためアニオン開始剤との反応性が低い。したがって、アニオン重合性が低くなる。