リビングアニオン重合およびリビングカチオン重合における副反応の詳細解説

リビング重合(リビングポリマー化)は、連鎖停止や連鎖移動反応が抑制された重合法である。

これにより、分子量分布が狭く、精密な分子構造を持つポリマーを生成できるが、理想的なリビング重合を達成するには、特定の副反応を極力回避することが求められる。

リビングアニオン重合およびリビングカチオン重合の各系では、それぞれ特有の停止反応や連鎖移動反応が発生しやすいため、これらの反応を詳細に理解することが重要である。

本記事では、リビングアニオン重合およびリビングカチオン重合の主な副反応について解説する。

リビングアニオン重合における副反応

リビングアニオン重合の基本原理

リビングアニオン重合は、アニオン活性種(主にカルバニオン)を用いた重合であり、停止反応や連鎖移動反応が抑制されることが理想である。これにより、開始剤と等モルの成長鎖が形成され、反応の進行によってポリマーの分子量が線形に増加する。

しかし、実際の反応系では酸性物質や酸素などの不純物が存在すると、これらの分子がアニオン活性種と反応し、停止反応が生じる。

副反応1: 酸性物質や酸素による停止反応

アニオン重合の系中に含まれる微量の酸性物質(例:水分、酸性官能基など)や酸素が、成長するカルバニオンと反応し、ポリマー鎖の成長が停止する。これにより、反応系のリビング性が失われる。

アニオン重合は非常に高い反応性を持つため、以下のような反応が生じやすい。

  • 酸性物質(水など)によるプロトン付加
  • R−CH2+H2O→R−CH3+OH
  • 成長カルバニオンがプロトンを受け取り、不活性化される。この反応により鎖の成長が停止し、重合度が制御できなくなる。
  • 酸素との反応:酸素分子はアニオン性の活性種と反応して酸化物を生成し、反応の進行が止まる。このため、反応系は通常、不活性ガス(窒素やアルゴン)で置換する必要がある。

副反応2: 極性モノマーにおける置換基との停止反応

リビングアニオン重合において極性モノマー(例:アクリロニトリルやメチルメタクリレートなど)を用いる場合、成長末端の近くに存在する置換基との間で停止反応が発生することがある。この場合、以下のような自己停止反応が生じる。

  • 末端のカルバニオンと置換基間の転移反応:極性モノマー中の電気陰性な置換基が、成長カルバニオンを安定化するように相互作用し、成長が停止する可能性がある。このような分子内相互作用により、重合の進行が阻害され、反応のリビング性が損なわれることがある。

リビングカチオン重合における副反応

リビングカチオン重合の基本原理

リビングカチオン重合は、カチオン活性種(主にカルボカチオン)を用いた重合である。リビングアニオン重合と同様、停止反応や連鎖移動反応が抑制されることが理想的である。

しかし、カチオン活性種は脱離や転移反応を起こしやすく、リビング性を維持するための制御が難しい。

副反応1: B水素脱離による連鎖移動反応

リビングカチオン重合で特に問題となるのは、成長カルボカチオンからのB水素脱離による連鎖移動反応である。B水素とは、カルボカチオンから2番目の位置に存在する水素原子のことであり、この水素が脱離することで重合が停止する。

  • B水素脱離の反応式
  • R−CH+−CH2−CH3→R−CH=CH2+H+
  • この反応では、成長末端が不飽和結合(アルケン)を形成し、重合の停止が生じる。特に、電子供与性の置換基がカルボカチオンを安定化させると、B水素脱離が促進されやすくなる。

副反応2: ヌクレオフィルによる反応

リビングカチオン重合では、ヌクレオフィル(例:溶媒分子、水、塩基など)と成長カルボカチオンとの反応も問題となる。この反応によりカルボカチオンが中和され、停止反応が生じる。

  • ヌクレオフィルによる中和反応
  • R−CH++Nu→R−CH−Nu
  • ここで、成長末端のカルボカチオンがヌクレオフィルと結合することで重合が停止し、リビング性が失われる。リビングカチオン重合を行う場合、無水条件や適切な溶媒選択が不可欠である。

まとめ

リビング重合において、リビングアニオン重合とリビングカチオン重合のそれぞれで異なる副反応が存在し、これらが反応の進行やポリマーの分子量分布に大きな影響を与える。

リビングアニオン重合では酸性物質や酸素との反応が停止原因となりやすく、極性モノマーの置換基が原因で自己停止する可能性もある。一方、リビングカチオン重合では、B水素脱離による連鎖移動やヌクレオフィルとの反応が問題となり、これらの副反応を抑制するためには、反応環境を適切に制御することが求められる。

練習問題

問題1

リビングアニオン重合において、成長カルバニオンが停止反応を起こしやすい理由を述べよ。

解説:成長カルバニオンは非常に反応性が高く、酸性物質や酸素に対して敏感であるため停止反応が起こりやすい。したがって、反応系を不活性ガス雰囲気下で行うなどの工夫が必要である。

解答:成長カルバニオンが酸性物質や酸素と反応するため、停止反応が起こりやすい。

問題2

リビングカチオン重合において、B水素脱離が連鎖移動反応として問題になる理由を説明せよ。

解説:B水素脱離が起こるとカルボカチオンがアルケンに変わり、重合が停止する。このため、理想的なリビング重合が維持できなくなる。

解答:B水素脱離によってアルケンが形成され、重合が停止するため。

問題3

リビングカチオン重合でヌクレオフィルが存在すると何が起こるか説明せよ。

解説:ヌクレオフィルが存在するとカルボカチオンが中和され、重合が停止する。無水条件が求められる。

解答:ヌクレオフィルがカルボカチオンを中和し、重合が停止する。