ゼーマン効果について解説「ESR」

はじめに

本記事では、電子スピン共鳴(ESR)の理解に不可欠な基礎概念について解説する。特に、電子スピンの磁気モーメントおよび磁場中で生じるゼーマン効果について詳述し、数式を用いながら分かりやすく整理する。



電子スピンと磁気モーメント

電子スピンとは

電子はスピンという固有の角運動量を持ち、これは量子力学的な性質である。電子のスピンは S = 1/2 で表され、その値は離散的な2つの状態、+1/2と**-1/2**に分かれる。

磁気モーメントの定義

電子スピンに伴って電子は磁気モーメント μ を持つ。磁気モーメントは以下のようにボーア磁子 μB を用いて表される

ここで、

  • g は電子のg因子(自由電子の場合 g≈2)
  • μB はボーア磁子で、その大きさは次の式で定義される
  • S はスピン角運動量
  • e は電子の電荷、ℏ は換算プランク定数、me​ は電子の質量

磁場中の電子スピンとゼーマン効果

ゼーマン効果とは

外部磁場 H0 を加えたとき、電子スピンは磁場方向に影響を受けてエネルギー準位が分裂する。この現象をゼーマン効果と呼ぶ。図1.3に示されるように、スピン状態は磁場の影響で2つのエネルギー準位に分かれる。

エネルギー準位の分裂

電子のエネルギー差 ΔE は磁場強度 H0 に比例し、以下の式で表される

ここで、

  • ΔE は2つのエネルギー準位間の差
  • g は電子のg因子(自由電子では g≈2)

2つのエネルギー準位

磁場中の電子スピン状態は次の2つのエネルギー準位を取る:

  1. αスピン状態(低エネルギー状態): μ=−μBH0
  2. βスピン状態(高エネルギー状態): μ=−μBH0

この2つの準位のエネルギー差は次のようになる

ESR(電子スピン共鳴)の原理

共鳴条件

電子スピン共鳴(ESR)では、電子がαスピン状態からβスピン状態へ遷移する。この遷移を引き起こすためには、電子にエネルギー ΔE に等しい電磁波(マイクロ波)を照射する必要がある。
共鳴条件は以下のように表される

ここで、

  • h はプランク定数
  • ν は電磁波の周波数

この条件が満たされると、電子は低エネルギー準位(αスピン)から高エネルギー準位(βスピン)へと遷移し、吸収スペクトルとして検出される。

ゼーマン効果の物理的理解

ミソスリ運動

磁場中に置かれた電子の磁気モーメントは、磁場の方向を中心として歳差運動(ラーモア歳差運動)を行う。この運動の周波数をラーモア周波数(ミソスリ運動の回転周波数)といい、次の式で表される

ここで、

  • ω はラーモア周波数

この周波数は外部磁場の強さ H0 に比例している。

応用と測定技術

ESRの応用

ESRは、主に次の分野で応用される:

  1. 化学分野:フリーラジカルや金属錯体の観測
  2. 生物学分野:生体内の不対電子の検出
  3. 物理分野:物質の電子状態や磁性の研究

測定技術

実際のESR装置では、磁場強度 H0 を変化させながら試料に電磁波を照射し、共鳴吸収を検出する。これにより、試料中の電子スピンの状態や環境が解析できる。


練習問題

問題1
外部磁場 H0=0.5 Tのとき、電子スピンのエネルギー準位間のエネルギー差 ΔE を求めよ。

解答

問題2
外部磁場 H0​ が2倍になった場合、ラーモア周波数 ω はどのように変化するか。

解答
ラーモア周波数 ωは H0​ に比例するため、磁場が2倍になると ω も2倍になる。


問題3
ESR共鳴条件 hν=gμBH0において、g=2, μB=9.27×10−24 J/T, H0=1 T のとき、共鳴周波数 ν を求めよ。

解答
プランク定数 h=6.626×10−34 J を用いると、

代入すると、


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