
応力の基本概念と物理的背景
応力の概念と内部力の作用
物体の内部に生じる力の分布とその影響を正確に理解することは、材料力学や構造解析において極めて重要である。

図に示されるように、均質で断面の形状が変化していない棒を考える。この棒の軸に沿って外力Fを加えた場合、棒の内部ではその外力に対抗する力が生じる。この内部の力は作用・反作用の法則に基づき、互いに釣り合う必要がある。
このような内部に生じる力の作用を明示的に考えるため、任意の断面を仮定し、その断面に作用する内力を定義する。
このとき、単位面積当たりの力が「応力(stress)」と定義される。
応力の成分分解と数式による定義
垂直応力とせん断応力の導出

図のように、棒の軸方向に対して任意の傾き角θを持つ断面Sを考えると、その断面に作用する力Fを成分分解することで、垂直方向と接線方向に分けられる。力Fは以下のように分解される:

このとき、単位面積あたりの応力は次のように表される

ここで、
- σ は垂直応力(normal stress)
- τ はせん断応力(shear stress)を表す。
この式より、せん断応力が最大となるのは角度 θ=45∘ のときであることが導かれる。
応力の厳密な定義と面の方向性の必要性
任意点における応力の定義と方向性

図では、物体内の任意点Pにおける微小面積dSを考え、その面に作用する微小力dfを用いて応力の厳密な定義を与えている。このとき、応力σは以下のように定義される

この式は、面積dSが限りなくゼロに近づいたときの単位面積あたりに作用する力を表し、ベクトル量としての応力を定義することに対応する。
応力は単なる大きさだけでなく、どの方向に力が作用しているかも重要であり、そのため作用面の法線方向nを基準として記述される。
また、応力は任意の方向の面に対して定義可能であり、P点を含むすべての面において、それぞれ異なる応力ベクトルが存在しうる。
よって、応力を正確に扱うためには、その力が作用する面の向きを指定する必要がある。
応力の本質と工学的意義
応力の方向性と面依存性の理解
応力は物体の変形や破壊の原因となる内力の本質を表す重要な物理量であり、その定義においては、力が作用する面とその面の法線方向が不可欠となる。
したがって、応力はスカラーではなくベクトルであり、さらにはテンソル的な性質も持つ。工学設計や解析においては、これらの応力成分を正確に把握することが、安全性や信頼性の確保に直結する。
