ウーリー糸の製造工程を解説

加撚・熱固定・解撚法による撚縮加工の全容と驚きの実用性


撚縮加工とは?糸に「かさ高性」と弾性を与える技術

撚縮(ねんしゅく)加工とは、無撚のフィラメント糸に撚りをかけ、加熱・冷却・解撚という工程を通して、糸に収縮性・弾性・ボリュームを与える加工法である。このプロセスにより、糸に立体的な構造が生まれ、通常の糸では得られない柔らかさとふくらみが実現される。


加撚・熱固定・解撚法の工程とメカニズム

工程①:撚りをかける(加撚)

まず最初に、マルチフィラメント糸(多数の細いフィラメントを束ねた連続糸)に撚りを加える。この段階では、糸は強い歪みを受けるが、まだ変形は固定されていない。

豆知識:
「フィラメント糸」とは、一本の長い連続した繊維のこと。ナイロンやポリエステルに多く見られる。

工程②:撚られたまま加熱し、冷却(熱固定)

次に、その撚られた状態の糸を軟化点温度以上で加熱することで、分子が自由に動きやすくなり、撚りによる歪みが緩和される。その後に冷却することで、糸は「撚られた形」を記憶する。

工程③:撚りを解く(解撚)

最後に糸を解撚すると、反発トルクにより糸がコイル状(スチール・ループ)に変形し、ボリュームを持った形状が出現する。これを撚縮(ヨリクセ)と呼ぶ。

この一連の流れは図で模式的に示されており、1本のフィラメントがバネのような形状となることで、ウーリー糸としての特性を発揮する。

🧵豆知識:
撚縮された糸の見た目は、綿のようなふわふわした構造。これにより「ウーリー(woolly)」という名称が付いた。


図で理解するウーリー糸の撚縮形成過程

図においては、以下のステップが図示されている:

  • 無撚のマルチフィラメントを供給
  • 撚りを加える(加撚)
  • 撚られたまま加熱・冷却(熱固定)
  • 撚りを解く(解撚)
  • フィラメント1本1本がコイル状に変形
  • 多数集合してウーリー糸が完成

このようにして得られる糸は、柔らかく・ふくらみがあり・弾性に富んでいるため、衣料用途で非常に重宝されている。


ウーリー糸の登場とその衝撃的な普及

昭和30年代、日本で最初にこの技術が実用化され、「ウーリーナイロン(現:東レ)」として上市された。これは国内初の「かさ高加工糸」であり、当時としては画期的な技術であった。

この加工糸は、優れた伸縮性・弾力性・軽量性・洗濯性(ウォッシュアンドウェア性)など、数々の機能を兼ね備えた衣料素材として爆発的に普及した。アイロン不要で、シワになりにくく、乾きも早いことから、「イージーケア素材」としても高い評価を受けている。

豆知識:
当時は天然繊維が主流だったが、ウーリー糸の登場により、合成繊維が一気に衣料市場の主役に躍り出た。


図6-2で見る実際の工程と準備作業

加工前には、フィラメント糸をボビンに巻き取る準備工程がある。ここで使用されるのが「イタリー式撚糸機」と呼ばれる機械で、フィラメントをボビンに巻きながら高速回転させることで撚りを与える。

撚られた糸は次に金属製のボビンに再度巻き取られ、蒸気による加熱処理(熱固定)が行われる。このときのボビンが「撚糸ボビン」と呼ばれる。

🔧豆知識:
ボビンとは、糸を巻くための筒状の部品で、撚糸・巻取り・染色などあらゆる工程で使用される。


加撚-熱固定-解撚法の意義と今後の展望

この加工法は、単なる撚り加工にとどまらず、熱と力学的応力の相乗作用を利用して素材の構造そのものに恒久的な特性を付加する技術である。衣料用途に限らず、今後はスポーツウェア、医療用繊維、産業資材など、機能性が求められる分野への応用も広がると予測される。

撚縮加工は、繊維産業において今後も不可欠な要素技術であり続けるだろう。ウーリー糸のように「見た目・触感・機能性」の三拍子が揃った製品は、今後の市場でも高い需要が見込まれる。

豆知識:
撚縮糸の開発は「化学」と「機械工学」と「感性」の融合。繊維技術の奥深さを象徴する分野でもある。

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