どのくらいの濃度の不対電子が試料中にあればESRスペクトルは観測されるのか?

ESR(電子スピン共鳴)観測の基礎

電子スピン共鳴(ESR)は、不対電子(フリーラジカルや常磁性金属イオン)の存在を検出するための感度の高い分析手法である。不対電子は反応性が高いため、生体内では安定して存在することが難しく、その検出には特定の条件が必要となる。

ESR観測が可能となるためには、不対電子の濃度が一定以上である必要があり、その具体的な条件や生体試料中の濃度についての解説を以下に示す。



1. ESRスペクトルが観測される濃度条件

ESR観測が可能となる不対電子の濃度条件は以下の通りである。

  • 液体試料の場合:不対電子の濃度が**0.1 μM (mol L⁻¹)**以上。
  • 固体試料の場合:試料中の不対電子の数が10¹²スピン以上。

これらの条件を満たすことで、ESR信号が検出可能となる。特に、固体試料では高感度な測定が可能であり、不対電子濃度の非常に低い試料でも測定が行えることが報告されている。


2. 生体組織におけるフリーラジカル濃度の測定結果

表4.7に示された生体組織中のフリーラジカル濃度のデータを参考にすると、試料による濃度の大きな違いが見られる。濃度が高い順にいくつかの例を以下に挙げる。

植物試料の例

  • コリウス葉:濃度が180×10⁸ mol/gと非常に高い。
  • タバコ葉:濃度が65×10⁸ mol/g

動物試料の例

  • カエルの受精卵:濃度が200×10⁸ mol/g
  • ウサギ肝臓:濃度が60×10⁸ mol/g

これらの試料はESR観測においても顕著な信号が得られることが予測される。


3. ESR観測の生体試料への応用

不対電子の安定性と影響因子

不対電子(フリーラジカル)は反応性が高く、外部の影響(酸素、光、熱)によって容易に消失する。そのため、ESR観測を行う際には以下の点に注意が必要である。

  1. 試料の前処理:迅速に凍結乾燥を行い、酸化などの影響を防ぐ。
  2. 測定条件:試料量を増加させたり、不対電子を安定化させる添加物を使用する。

4. 生体内フリーラジカルの生成要因

生体内でフリーラジカルが生成される要因としては、以下が挙げられる。

  • 代謝活動:ミトコンドリアでの酸化的リン酸化に伴う生成。
  • 外部ストレス:紫外線や放射線、化学物質による誘発。
  • 抗酸化系の破綻:抗酸化物質の不足や酵素活性の低下。

これらのフリーラジカルは、生体内での酸化ストレスの指標としても重要であり、健康状態の指標として活用される。


植物および動物試料の特徴

高濃度を示す試料

  • 植物試料では、コリウス葉が特に高濃度である。このため、抗酸化成分やフリーラジカルの役割を研究する試料として有用である。
  • 動物試料では、カエルの受精卵が高い濃度を示す。

低濃度の試料

  • 動物試料の中では、ショウジョウバエホタルの発光部が低濃度であるが、それでもESR観測には十分な濃度を有している。

練習問題

問題1
液体試料でESR信号を観測するために必要な不対電子濃度を答えよ。

解答
0.1 μM (mol L⁻¹)。

問題2
高いフリーラジカル濃度を示す試料は何か。

解答
カエルの受精卵(200×10⁸ mol/g)。

問題3
ESR観測において固体試料で必要な最低限の不対電子数はいくつか。

解答
10¹²スピン。


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