極性の無い分子間にも弱い結合が働いています。
これは実は、万有引力ではなく電気的な引力です。
いかなる分子も、電子が完全な均等配置をとっている訳ではありません。多少なりとも不均等な部分があると、それによって他の分子も電子配置が不均等になります。
本記事では、ファンデルワールス力の基本概念、種類、具体例、及びその応用について詳しく解説します。
ファンデルワールス力の基本概念
分子間力とは?
分子間力とは、分子同士が引き合ったり、反発したりする力のことです。
これらの力は化学結合とは異なり、分子内ではなく分子間に働きます。分子間力は物質の凝集状態(固体、液体、気体)や溶解性、融点・沸点などの物理的性質に影響を与えます。
ファンデルワールス力の定義
ファンデルワールス力は、オランダの物理学者ヨハネス・ファン・デル・ワールスにちなんで名付けられた分子間力です。
この力は、極性分子や非極性分子間に働く非常に弱い引力で、主に以下の3種類に分類されます。
ファンデルワールス力の種類
1. 方向力(静電相互作用)
方向力は、永久双極子を持つ分子間で働く力です。例えば、水分子(H₂O)は極性分子であり、酸素原子が負の電荷を持ち、水素原子が正の電荷を持つため、分子間に静電相互作用が発生します。
2. 誘起力(双極子-誘起双極子相互作用)
誘起力は、永久双極子を持つ分子が近接する非極性分子に誘起双極子を生じさせることで働く力です。
これにより、非極性分子が一時的に極性を帯び、双極子-誘起双極子相互作用が発生します。
この力を、誘発分極とも言います。
以下の記事で誘発分極について詳しく説明しておりますので、参考に。
3. 分散力(ロンドン分散力)
分散力は、全ての分子間に働く力で、特に非極性分子間で重要です。
電子の運動による瞬間的な双極子が、隣接する分子にも双極子を誘起し、これが相互作用を生じます。分散力は、ファンデルワールス力の中で最も一般的で広範な力です。
以下にアルゴン原子での説明をします。
中心のアルゴン原子の電子の揺らぎが隣のアルゴン原子の電子に影響を与え、全体として分極した分子が集まっている状態になります。
この分極は永久的なものではなく、常に移り変わっています。
この力をロンドン分散力と言います。
以下の記事でロンドン分散力について詳しく説明しておりますので、参考に。
ファンデルワールス力の具体例と応用
ファンデルワールス力の具体例
ファンデルワールス力は、日常生活や科学の様々な場面で見られます。例えば、ゲッコー(ヤモリ)の足は微細な毛があり、壁面との間にファンデルワールス力を発生させることで垂直な壁を登ることができます。
また、分散力は、液体の表面張力や固体の融点・沸点にも影響を与えます。
ファンデルワールス力の応用
ファンデルワールス力は、多くの科学技術分野で応用されています。例えば、ナノテクノロジーでは、ナノ材料の自己組織化やナノ粒子の安定化に利用されています。
また、医薬品の設計においても、分子間の相互作用を考慮することで、薬物の効果や安定性を向上させることができます。
ファンデルワールス力に関する簡易練習問題
問題 1
水分子間で働くファンデルワールス力の種類は何ですか?
解答
方向力(静電相互作用)
問題 2
非極性分子間で最も一般的に働くファンデルワールス力は何ですか?
解答
分散力(ロンドン分散力)
問題 3
ゲッコーが壁を登ることができるのは、どのファンデルワールス力によるものですか?
解答
分散力(ロンドン分散力)
問題 4
誘起力が働くのはどのような場合ですか?
解答
永久双極子を持つ分子が近接する非極性分子に誘起双極子を生じさせる場合
問題 5
ファンデルワールス力が応用される技術分野の一例を挙げてください。
解答
ナノテクノロジーや医薬品設計
まとめ
ファンデルワールス力は、分子間に働く弱い引力であり、物質の物理的性質や科学技術において重要な役割を果たします。
方向力、誘起力、分散力の3種類があり、それぞれの特徴と具体例、応用について理解することで、分子間相互作用の神秘に触れることができます。