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リビングラジカル重合は、重合反応において分子量分布が狭く、予測可能なポリマーを得るために用いられる制御型ラジカル重合法である。
この技術により、分子量や末端基の制御、ブロックコポリマーの合成が可能になる。以下に、リビングラジカル重合の具体的な方法として、代表的な3種類の手法を解説する。
1. ラジカル解離型(ニトロキシドラジカル重合)
メカニズム
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ラジカル解離型のリビングラジカル重合では、ニトロキシド(NO・)のような安定なラジカルが活性種である成長ラジカルと可逆的に結合・解離を繰り返す。
この結合と解離の平衡を通じて、成長ラジカルが一時的に「ドーマント種」として不活性化される。解離が起こると再び活性種が生成され、重合反応が再開する。
ドーマント種と活性種
- ドーマント種:成長ラジカルがニトロキシドラジカルと結合して生成する安定化状態(例えば、ポリマー鎖末端に結合したニトロキシド)。
- 活性種:ニトロキシドラジカルから解離した成長ラジカル(ポリマー鎖末端のラジカル)。
特徴
この方法では、反応温度の制御が重要であり、適切な温度でないと成長ラジカルが過剰に解離してしまい、重合が制御されなくなる。特にスチレンやアクリル酸エステル類の重合において、精度の高い分子量制御が可能である。
2. 原子移動型(ATRP:原子移動ラジカル重合)
メカニズム
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原子移動型では、銅やルテニウムなどの遷移金属触媒が用いられ、ポリマー鎖末端のハロゲン(通常はClやBr)が遷移金属との酸化還元反応により移動する。
この結果、ポリマー鎖末端が一時的にドーマント種として安定化される。活性化すると再びハロゲンが移動し、ポリマー鎖末端のラジカルが生成されて重合が進行する。
ドーマント種と活性種
- ドーマント種:ハロゲン原子(ClやBr)でキャッピングされたポリマー鎖末端。
- 活性種:ハロゲン原子が遷移金属に移動し、ポリマー鎖末端にラジカルが生成された状態。
特徴
原子移動ラジカル重合(ATRP)は、広範なモノマーに対して適用可能であり、制御性の高いブロックコポリマーや多様な機能性ポリマーの合成ができる。触媒である遷移金属の選択により、重合速度や分子量制御が可能であるが、触媒の残留や反応の酸化環境への敏感さが課題となる。
3. 連鎖移動型(RAFT:可逆的付加-切断連鎖移動重合)
メカニズム
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連鎖移動型では、チオカルボニルチオ基を持つラフト剤(RAFTエージェント)が用いられる。このラフト剤が活性種である成長ラジカルと迅速に反応し、一時的にドーマント種を形成する。
ドーマント種と活性種の間で可逆的な交換が繰り返され、重合が制御される。重合が進むと、生成されたポリマー鎖も連鎖移動に関与するため、連鎖終端や副生成物の生成が少ない。
ドーマント種と活性種
- ドーマント種:ラフト剤と結合して安定化したポリマー鎖。
- 活性種:ラフト剤から切断され、ラジカルが再生成されたポリマー鎖末端。
特徴
RAFT重合は、ラフト剤の構造を調整することで、さまざまなモノマーに適用できる柔軟性が高く、制御性も良い。また、酸素の影響を受けにくいという利点があるため、産業応用にも向いている。
練習問題
問題1
次のリビングラジカル重合法のうち、銅やルテニウムといった遷移金属触媒を使用する方法はどれか。
- a. ラジカル解離型
- b. 原子移動型
- c. 連鎖移動型
解答と解説
解答:b. 原子移動型
解説:原子移動型は遷移金属触媒を用いてハロゲン原子を移動させることにより、成長ラジカルをドーマント種とするための酸化還元反応を促進する。
問題2
RAFT重合におけるドーマント種はどのようにして生成されるか。
- a. ラフト剤と成長ラジカルが結合することにより生成される
- b. ハロゲン原子が金属触媒に移動することで生成される
- c. ラジカルとニトロキシドラジカルが結合することで生成される
解答と解説
解答:a. ラフト剤と成長ラジカルが結合することにより生成される
解説:RAFT重合において、ラフト剤が成長ラジカルと反応し、一時的に安定なドーマント種を形成する。これが連鎖移動の鍵である。
問題3
ニトロキシドラジカル重合(ラジカル解離型)でのドーマント種と活性種の間の反応はどのようにして制御されるか。
- a. 温度の調整
- b. モノマー濃度の調整
- c. 酸化剤の添加
解答と解説
解答:a. 温度の調整
解説:ニトロキシドラジカル重合では、温度が解離と結合の平衡に直接影響するため、温度の調整が重合の制御に重要な役割を果たす。
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