p-ヒドロキシスチレンのアニオン重合においてポリ(p-ヒドロキシスチレン)が生成しない理由と、その生成を実現する方法について解説する。アニオン重合を利用した場合の特性や、ヒドロキシ基の化学的性質を考慮しながら、具体的な合成法を述べる。
p-ヒドロキシスチレンのアニオン重合における問題点
1. ヒドロキシ基の酸性度と成長アニオンへの影響
p-ヒドロキシスチレンは分子中にヒドロキシ基(-OH)を持ち、これは酸性度が高い官能基である。このヒドロキシ基はアニオン重合の開始剤や成長アニオンと反応しやすく、プロトンを放出してフェノキシドアニオン(C₆H₅O⁻)を生成する。この反応により、以下の問題が生じる:
- 成長アニオンの消失:成長アニオン(ポリマーチェーンの伸長を担うアニオン)がヒドロキシ基と反応して失われることで、重合が途中で停止する。
- フェノキシドアニオンの生成:生成したフェノキシドアニオンは、再びモノマーであるp-ヒドロキシスチレンのアニオン重合を開始できないため、反応の進行を妨げる。
このため、p-ヒドロキシスチレン単体をアニオン重合しても、高分子であるポリ(p-ヒドロキシスチレン)は生成しない。
ヒドロキシ基の保護によるアニオン重合法
1. ヒドロキシ基の保護の必要性
アニオン重合による高分子化を実現するには、ヒドロキシ基が成長アニオンと反応するのを防ぐ必要がある。そこで、ヒドロキシ基を保護基で修飾し、一時的に反応性を封じる方法が有効である。保護基の導入により、アニオン重合が中断することなく進行する。
2. 保護基としてのtert-ブチル基やtert-ブチルジメチルシリル基
一般的に、ヒドロキシ基の保護には以下のような保護基が用いられる:
- tert-ブチル基(t-Bu):比較的簡単に導入でき、酸や加熱によって容易に除去可能である。
- tert-ブチルジメチルシリル基(TBDMS):酸触媒やフッ化物イオンの存在下で脱保護できる。
保護基導入後、p-ヒドロキシスチレンはヒドロキシ基の影響を受けなくなり、アニオン重合が進行する条件が整う。
ポリ(p-ヒドロキシスチレン)合成の手順
1. p-ヒドロキシスチレンの保護
まず、p-ヒドロキシスチレンのヒドロキシ基を保護基で修飾する。
p-ヒドロキシスチレンのヒドロキシ基にtert-ブチル基を導入すると、p-tert-ブトキシスチレン(保護化されたp-ヒドロキシスチレン)が生成する。
2. アニオン重合の実施
次に、保護基で修飾されたp-ヒドロキシスチレン(p-tert-ブトキシスチレン)を用いてアニオン重合を行う。この場合、ヒドロキシ基が保護されているため、成長アニオンが影響を受けずに重合が進行する。生成物はポリ(p-tert-ブトキシスチレン)であり、高分子化に成功する。
3. ポリ(p-ヒドロキシスチレン)の生成(脱保護)
アニオン重合が完了し、目的の高分子が得られた後、保護基を除去する。具体的には、酸触媒や加熱によってtert-ブチル基を脱保護することで、最終的にポリ(p-ヒドロキシスチレン)が得られる。
p-ヒドロキシスチレンのヒドロキシ基を一度保護することでアニオン重合を進行させ、重合後に脱保護してポリ(p-ヒドロキシスチレン)を合成することができる。
実践問題
以下に、学習の理解を深めるための問題を3問用意する。
問題1
p-ヒドロキシスチレンをアニオン重合すると、重合が停止する理由を簡潔に説明せよ。
解答と解説
p-ヒドロキシスチレンのヒドロキシ基は酸性度が高く、成長アニオンと反応してフェノキシドアニオンを生成する。このフェノキシドアニオンは、再びアニオン重合を開始できないため、重合が停止する。
問題2
ポリ(p-ヒドロキシスチレン)を合成する際、ヒドロキシ基にtert-ブチル基を保護基として導入する理由を説明せよ。
解答と解説
ヒドロキシ基が成長アニオンと反応するのを防ぎ、重合が中断するのを防ぐためである。tert-ブチル基で保護することで、アニオン重合が安定して進行できる環境を整える。
問題3
保護基を脱保護する方法を1つ挙げ、脱保護後に得られる化合物を答えよ。
解答と解説
酸触媒や加熱を用いて脱保護が可能である。脱保護後に得られるのは、ポリ(p-ヒドロキシスチレン)である。