





スチレンの重合は開始剤の選択により異なる重合機構が発生し、生成するポリマーの末端構造や分子量に影響を及ぼす。以下では、与えられた各開始剤について、開始反応と生成されるポリマー末端について解説する。カチオン重合とアニオン重合でそれぞれ異なる機構が発生し、反応性も異なるため、各系の特性を示す。
1. SnCl4/C2H5Cl系:カチオン重合の開始反応


開始反応機構
SnCl4/C2H5Cl系は、スチレンのカチオン重合を引き起こす代表的なLewis酸系の開始剤である。この系では以下のようなプロセスでカチオン種が生成され、重合が進行する。
- SnCl4はLewis酸であり、C2H5Cl(エチルクロリド)中でスチレンのπ電子に作用することで、スチレンモノマーを活性化する。
- SnCl4は、スチレンにプロトン化を誘導する役割を果たし、スチレン分子がカルボカチオン種を形成する。
- 生成されたカルボカチオン(Ph-CH2+)が、隣接するスチレン分子と反応し、連鎖重合が進行する。
連鎖移動反応と末端構造
カチオン重合においては、成長端でβ水素脱離が生じやすく、これにより連鎖移動が起こる。β水素脱離によって生成する不飽和基が高分子の末端に導入され、これにより生成物の構造が影響を受ける。
2. HClO4系:カチオン重合の開始反応


開始反応機構
過塩素酸(HClO4)も強いプロトン酸として作用し、スチレンをカチオン重合で開始させる。以下のプロセスで開始反応が進行する。
- HClO4がスチレン分子にプロトンを供与し、プロトン化されたスチレンがカルボカチオン(Ph-CH2+)を生成する。
- このカルボカチオンが新たなスチレン分子と反応し、連鎖的に重合が進行する。
連鎖移動反応と末端構造
SnCl4と同様に、HClO4系でも成長端でβ水素脱離が生じ、不飽和基が末端構造として導入される。これにより、ポリマーの末端にアルケン構造が存在することが特徴となる。
3. n-ブチルリチウム系:アニオン重合の開始反応


開始反応機構
n-ブチルリチウム(n-BuLi)は、スチレンのアニオン重合を開始する典型的なアニオン開始剤である。この系では以下のように重合が開始する。
- n-BuLiがスチレン分子に付加し、スチレンがアニオン化されてカルバニオン(Ph-CH2-)が生成する。
- このカルバニオンが次のスチレン分子に反応し、アニオン的な連鎖重合が進行する。
停止反応と末端構造
アニオン重合では停止反応が必要であり、ここではアルコールによってプロトン付加が行われる。停止末端はプロトン化により、末端に水素が付加された構造となる。また、開始末端はn-BuLiの構造に由来するため、ポリマーの片方の末端にはブチル基が残る。
4. ナトリウム/ナフタレン系:アニオン重合の開始反応




開始反応機構
ナトリウムとナフタレンの混合系は、スチレンのアニオン重合を開始するための代表的な電子移動系の開始剤である。この系では以下の反応が行われる。
- ナトリウム/ナフタレン系は電子供与体として働き、スチレンに電子を供与してスチレンアニオンを生成する。
- 生成されたアニオンが新たなスチレン分子に反応し、重合が進行する。
停止反応と末端構造
n-ブチルリチウムと同様に、ナトリウム/ナフタレン系で生成されたポリスチレンアニオンもアルコールでプロトン付加させて停止させる。この場合、末端に水素が付加された構造が得られるが、開始末端はナフタレンに由来した構造となるため、ポリマー構造にわずかな違いが生じる。
各開始剤の重合特徴のまとめ
開始剤 | 重合方式 | 開始反応 | 成長端での連鎖移動反応 | 停止反応 | ポリマー末端構造 |
---|---|---|---|---|---|
SnCl4/C2H5Cl | カチオン重合 | SnCl4によるスチレンのプロトン化 | β水素脱離による不飽和末端 | 不要 | 不飽和基末端 |
HClO4 | カチオン重合 | HClO4によるスチレンのプロトン化 | β水素脱離による不飽和末端 | 不要 | 不飽和基末端 |
n-ブチルリチウム | アニオン重合 | n-BuLiによるアニオン化 | 起こらない | アルコールによるプロトン付加 | ブチル基+水素末端 |
ナトリウム/ナフタレン | アニオン重合 | ナトリウム/ナフタレンによる電子供与 | 起こらない | アルコールによるプロトン付加 | ナフタレン構造+水素末端 |
練習問題
問題1
SnCl4/C2H5Cl系によるカチオン重合で、連鎖移動反応が起こるとポリマーの末端にどのような構造が導入されるか答えよ。
解答
SnCl4/C2H5Cl系では、成長端でのβ水素脱離による連鎖移動反応により、不飽和基が末端に導入される。
問題2
n-ブチルリチウムを用いたアニオン重合の停止反応において、アルコールを用いる理由を述べよ。
解答
アニオン重合で生成されたアニオンをプロトン付加によって安定化させるためにアルコールを使用し、末端構造に水素を導入するためである。
問題3
HClO4を用いたスチレンの重合で、成長端に不飽和基が導入される理由を説明せよ。
解答
HClO4によるカチオン重合では、成長端でβ水素脱離が生じることで連鎖移動反応が発生し、その結果として不飽和基が末端に導入されるためである。




