光学活性な第二級アミンを得るための方法として、キラルなスルフィンイミンを経由する手法が有用である。
特に、スルフィンイミンへの有機金属試薬の求核付加反応がその中核を担っている。
ここでは、スルフィンイミンの合成手順、具体的な反応条件、精製方法について解説する。
キラルスルフィンイミンの合成
スルフィンイミン合成の概要
キラルなスルフィンイミンは、光学活性なスルフィンアミンとアルデヒドまたはケトンの縮合反応によって合成される。
この反応は、反応物の選択や条件設定により、生成物の光学純度やE/Z異性体比が変動するため、精密な条件のコントロールが求められる。
使用する試薬と反応条件の詳細
今回の合成においては、光学活性なナブチルスルフィンアミドとケトンを反応させてスルフィンイミンを得る。具体的な手順と試薬の使用量は以下の通りである。
実験手順
1. 試薬の調整と準備
試薬 | 重量(g) | モル数(mmol) |
---|---|---|
ナブチルスルフィンアミド | 1.52 | 12.5 |
ケトン | 2.37 | 15.0 |
Ti(OEt)4 | 6.0 | 25 |
THF溶媒 | 25 mL | - |
2. 反応の進行
- 反応混合
ナブチルスルフィンアミド(1.52 g, 12.5 mmol)とケトン(2.37 g, 15.0 mmol)をテトラヒドロフラン(THF)25 mLに溶解させ、反応溶液を調製する。ここにチタンエトキシド(Ti(OEt)4, 6.0 g, 25 mmol)を添加し、均一になるまで攪拌する。 - 加熱還流
反応混合物を15時間加熱還流させ、スルフィンアミドとケトンの縮合反応を進行させる。この間、反応が均一に進むよう適宜攪拌を行う。
3. 反応終了後の処理
- 冷却と水洗浄
反応終了後、溶液を室温まで冷却する。冷却後に飽和食塩水(25 mL)を加え、激しく攪拌してチタンエトキシドなどの副生成物を水層に移行させる。 - セライト上でのろ過
生じた混合物をセライト上でろ過し、不純物や固形物を除去する。ろ過後の固形物は、酢酸エチルで洗浄し、得られた洗浄液を有機層に加える。 - 分液と乾燥
分液漏斗を用いて有機層と水層を分離する。水層はさらに酢酸エチルで抽出し、有機相を全てまとめる。有機相は無水硫酸ナトリウムで乾燥し、脱水後にろ過して溶液を濃縮する。
4. 精製と生成物の確認
- カラムクロマトグラフィー
得られた粗生成物は、ヘキサン:酢酸エチルを2:3の比で用いたカラムクロマトグラフィーによって精製する。ここで不純物の除去と目的物の分離を行い、高純度のスルフィンイミンを得る。 - E/Z異性体比の確認
精製後、NMRを用いてスルフィンイミンのE/Z異性体比を確認する。本実験ではE/Z比が約8:1で得られており、高い立体選択性が確認できる。 - 収量と収率
最終的にスルフィンイミン3.21 gが得られ、収率は82%である。
実験上の注意点と考察
チタンエトキシドの役割と反応条件
チタンエトキシド(Ti(OEt)4)は本反応において縮合反応を促進する触媒として作用し、特に酸性条件下で反応を効率よく進行させる。また、THF溶媒は反応物を均一に溶解させ、反応速度と生成物の純度に好影響を与える。
反応時間と温度管理
反応は15時間の還流が推奨されるが、温度管理と還流時間の調整は、収率や立体選択性に大きく影響を与えるため注意が必要である。反応が不十分であると、E/Z比の低下や不純物の生成が起こる可能性があるため、適切な条件設定が不可欠である。
精製方法の選択と異性体比の分析
カラムクロマトグラフィーは、特にE/Z異性体を分離するための手段として有効であり、ヘキサンと酢酸エチルの比率を適切に選ぶことで純度の高い生成物を得ることができる。NMR分析は、生成物の異性体比を確認するための信頼性の高い手法である。
練習問題
問題1
ナブチルスルフィンアミドとケトンの反応において、チタンエトキシドの役割を説明せよ。
解答
チタンエトキシドは、スルフィンアミンとケトンの縮合反応を促進する触媒である。酸性条件を提供し、スルフィンイミン生成の収率を高める働きを持つ。
問題2
反応後、飽和食塩水を加える理由を述べよ。
解答
飽和食塩水を加えることで、チタンエトキシドなどの副生成物が水層に移行し、反応溶液中から除去されやすくなる。
問題3
NMR分析により、どのようにE/Z異性体比を判定できるか。
解答
NMRスペクトルにおいて、EおよびZ異性体に特有の化学シフトが異なるため、それぞれのピークの積分値を比較することで異性体比を判定できる。
問題4
カラムクロマトグラフィーでヘキサンと酢酸エチルの比を2:3にする理由を述べよ。
解答
ヘキサンと酢酸エチルの比率を2:3にすることで、目的のスルフィンイミンと不純物の分離を効率的に行い、目的物の純度を高めるためである。
問題5
無水硫酸ナトリウムを用いる目的を説明せよ。
解答
無水硫酸ナトリウムは、有機相の乾燥剤として用いられ、水分を除去することで生成物の純度を高める役割を果たす。