2つの同種原子からなる分子(二原子分子)の自由度

二原子分子の自由度を求める意義

分子の運動をモデル化する目的

分子の運動を理解することは、分子動力学、熱力学、分光学において極めて重要である。特に二原子分子の場合、個々の原子の運動の自由度が全体の運動にどのように影響するかを明確化することが、物性の解明やエネルギー分布の解析につながる。

剛体棒モデルの導入

二原子分子を、長さ l の質量のない剛体棒で A と B の原子(質点)を結ぶモデルとして表現する。このモデルにおいて、A および B は質点と見なされ、両者を結ぶ剛体棒は変形しないと仮定する。これにより、運動の自由度を物理的制約の中で定量化できる。

二原子分子の自由度の計算方法

各原子の持つ自由度

一般に、空間内の1つの質点は3つの自由度(x、y、z軸方向の移動)を持つ。したがって、2つの原子から成る分子では、全体で3 × 2 = 6の自由度を有する。

並進運動による自由度

この6つの自由度のうち、分子の重心が空間内を移動する自由度が3つ存在する。これらは、x、y、z方向に重心が移動する自由度であり、分子全体の位置を決定する。

回転運動による自由度

次に、分子の回転に関連する自由度を考慮する。通常、3次元空間では回転の自由度は3である。しかし、対象の分子が「直線分子」、すなわち2つの原子が一直線上に配置された分子である場合、分子軸を含む回転軸に関する回転は無意味となる。
これは、剛体棒モデルにおいて A と B を結ぶ軸自体の周りの回転は、見かけ上の変化を生じさせないためである。したがって、回転の自由度は3ではなく2となる。

振動自由度の導入

残りの自由度の正体

重心の並進運動3、回転運動2の合計5つの自由度が確定したことにより、残りの1つの自由度は分子内でAとBの距離が変化する運動、すなわち分子の軸方向に沿った振動に対応する。

図による理解

図(a)に示されるように、AとBは剛体棒によって固定されており、回転の自由度はAとBを結ぶ軸を中心とする回転を除外するため2となる。また、図(b)では、この残りの1つの自由度が、分子軸方向の振動として表現されている。

振動自由度が扱えない理由

剛体棒モデルの限界

この分子を、長さ l の質量のない剛体棒で A と B の原子(質点)を結んだモデルで記述した場合、この振動の自由度に対応した運動は扱うことができないことがわかる。これは、剛体棒が「伸び縮みしない」という仮定に基づいており、剛体棒が分子内の結合距離の変化を許容しないためである。

結合距離変化を表すには

実際の分子においては、原子間距離は振動により微小に変化する。これを扱うためには、剛体棒モデルではなく、ばねモデルのような伸縮可能な要素を含むモデルが必要となる。剛体棒は回転および並進のみを許容するため、結合長の振動という内部自由度は表現できないのである。

まとめ

剛体棒モデルによる二原子分子の自由度解析においては、全体で6つの自由度のうち、重心の並進運動3、回転運動2が考慮され、残る1つの自由度である分子軸方向の振動運動は扱えないことが示された。

このことは、剛体棒というモデルの制約に起因しており、分子内の振動現象を正確に記述するには、より柔軟な物理モデルを採用する必要があることを示唆する。

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