分子膜の話をしようか

分子膜とはなにか?

目には見えない、分子がつくる超うすい膜

分子膜とは、文字どおり「分子がつくる膜」のことである。分子は物質をつくる最小の単位のひとつであり、この小さな分子がたくさん集まって、1枚の非常にうすい膜をつくる。目では見えないほどの厚さでありながら、性質ははっきりしていて、科学的にも重要な役割を持つ。

たとえば、石油を水にたらすと水面に広がって、虹のような色が見えることがある。これは石油の分子が水の表面にうすく広がって膜をつくったからであり、その膜が光を反射・干渉することで虹色に見えるのだ。

シャボン玉も分子膜の一例

身近な例として、シャボン玉の膜も分子膜の一種である。シャボン玉の膜は、石けん分子が水と空気のあいだに並んでうすい層をつくっている。つまり、分子膜はどこにでも存在するものなのだ。


虹をつくる石油膜:光の干渉が示す膜の存在

石油を水面に垂らすと、虹色に輝く油膜が現れる。この虹色の原因は、膜の厚さが可視光の波長と同程度であるために起こる「干渉」である。

図に示されるように、光は石油膜の表面および水面からそれぞれ反射され、それらが重なり干渉することで色が現れる。

したがって、石油膜が虹色に輝く現象は、分子が膜状に並んでいることの明確な証拠でもある。


石油膜のしくみを図で理解する

石油分子のかたちは「長いひも」

石油はさまざまな分子の混合物であるが、代表的な分子は図に示されているように、炭素(C)と水素(H)からなる「ひも」のような形をしている。CH₂というグループがたくさんつながり、まっすぐだったり折れ曲がったりしている。

この「ひも」が水の表面に広がると、水になじみやすい端と、水をはじく端があり、それぞれが自然と並んで膜をつくる。

石油分子の構造を図で見ると、炭素原子に2つの水素原子が結びついた繰り返し構造(CH₂)が基本である。これらが直鎖的に連なり、長い円筒形のような立体構造を形成する。

水に浮かぶ石油の分子膜

石油は水よりも軽いため、水面に浮かぶ。その際、石油の分子は水面に対して「横向き」に並び、図のような平らな膜を形成する。この状態では、膜は紙のようにぴんと張っていて、非常に安定している。

このような構造は、分子同士の親水性・疎水性に基づく自発的な整列によって可能となる。分子の疎水性部分が空気側、親水性部分が水面側に向くことで安定した膜構造が実現する。

分子膜を作る分子の正体(界面活性剤)

家庭の台所に行けば、様々な洗剤が目に入る。

これらに共通して含まれるのが、分子膜を形成する分子、すなわち「界面活性剤」である。中性洗剤や石鹸(古くは石鹸が界面活性剤として用いられていた)も、このカテゴリーに属する。

しかし、ここで注目すべきは「両親媒性分子」というより高度な概念である。洗剤に含まれる界面活性剤は、この両親媒性分子に分類される。


分子膜の多様性:立つ膜と寝る膜

図には二種類の分子膜の模式図が示されている。左は分子が垂直に立って並んだ構造、右は横に寝て並んだ構造である。石油膜は後者に相当するが、垂直に立った分子膜も重要な存在である。

特に注目すべきは、生物の細胞を構成する「細胞膜」である。

生命を包む分子膜:細胞膜のしくみ

分子膜の究極形=細胞膜

細胞膜とは、すべての生き物の細胞を包んでいる膜である。この膜も分子によって構成されている。主に「リン脂質」という分子が関係しており、頭の部分は水になじみ、しっぽの部分は水をはじく。

この性質により、分子が2重に並んで、内側と外側をはっきりと分ける「二重膜構造」をつくる。この構造は、生命の基本単位である細胞を守る「バリア」のような役割を果たしている。

「命を包む分子膜」の意味

このように、分子膜は単なる物理的な膜ではなく、命そのものを守る役割を持っている。だからこそ、「命を包む分子膜」とも言われるのだ。

これは分子が垂直に並び、外界と細胞内部を隔てる重要な役割を果たしている。分子膜の中でも、細胞膜は生命を包む“究極の膜”といえる存在であり、「命を包む分子膜」と形容される所以である。

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