素粒子物理と単位系の不思議な関係(プランク定数が1・光速が1とする理由)

素粒子物理の世界では「1」がいっぱい!?

素粒子物理学の論文や教科書を読んでいると、ふと奇妙なことに気づく。「あれ? プランク定数 ℏや光速 c が1ってどういうこと?」と。

実はこれ、専門家にとっては常識の“省略”
例えば、

  • ℏ=h/2π(プランク定数)
  • c(真空中の光速)

といった重要定数を「1」と置くことで、理論式が驚くほどスッキリするのだ。


SI単位系とMKSA単位系って何?

我々が日常で使う単位系は国際単位系 SI。素粒子物理でも、これをベースにした「MKSA単位系」が使われる。

MKSAとは:

  • M(メートル):長さ
  • K(キログラム):質量
  • S(秒):時間
  • A(アンペア):電流

これらを基準に、あらゆる物理量が表現される。例えば、力の単位ニュートンは

というように、MKSAの組合せで記述される。


えっ、光速が「1」? — 相対論的世界の秘密

アインシュタインの特殊相対性理論では、光速 ccc は宇宙におけるスピードの限界。だからこそ、光速を単位系の基準にすると、世界が一気に整理される。

式で見ると

ここで c=1 と置くと、

となり、エネルギー・運動量・質量が同じスケールで扱えるようになる。
「光速が1」= 時間と空間の統一というイメージができる。

豆知識:
秒とメートルは本来別物だが、光速が1になると「1秒 = 約30万km」として変換可能に。まさに「時間 = 距離」の世界。


プランク定数を1に!?— 量子の世界の直観

量子力学において、プランク定数 ℏ は不可欠。電子の波としての性質や不確定性を表す鍵である。

ド・ブロイ波長の式

を ℏ=1 にすると、

と簡潔に。これは「波と粒子の二重性」を扱いやすくする工夫だ。

さらに、次元的には

というシンプルな関係が成り立ち、エネルギーが世界の基本通貨のようになる。


「無次元」の美しさ — 微細構造定数という謎

量子電磁気学で登場する微細構造定数 α
これは、電子が光を放出・吸収する確率を示す謎めいた定数で、

という形で登場する。ここで、ε0=μ0=ℏ=c=1 と置くと…

と、なんと無次元数になってしまう!

豆知識:
この「137」という数値、あの物理学者リチャード・ファインマンも「宇宙の魔法の数字」と呼んでいた。


表:物理の4つの基本定数


単位を選ぶことは、世界の見方を選ぶこと

最後に、こうした「自然単位系(c=ℏ=1)」の採用が持つ深い意味を確認しよう。
これは単なる表記の簡略化ではなく、物理の根底にある対称性や統一性を際立たせる視点なのである。

豆知識:
重力定数 G をも 1 にすることで、「プランク単位系」が完成し、重力・量子・相対論の3つを統合する理論へと接近できる。


まとめ:単位にこそ宇宙の構造が隠されている

単位系を選ぶという行為は、物理法則をどの視点で眺めるかを決めるということに等しい。
素粒子物理学では、自然単位系によって「本質だけが残る」美しい世界が見えてくる。

「1」によって削ぎ落された式たちの背後には、宇宙の深遠な構造が静かに浮かび上がるのである。

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