
ビタミンDとは何か?
ビタミンD(Vitamin D)は、骨粗鬆症などの治療において重要な役割を果たし、血中のCa²⁺濃度を高める作用や免疫応答にも関与する不可欠なビタミンである。
現在、主要なビタミンDとして、**ビタミンD₂(エルゴカルシフェロール)とビタミンD₃(コレカルシフェロール)**の2種類が知られている。ビタミンD₂は植物由来であり、ビタミンD₃はヒトを含む動物において重要な役割を果たしている。
ビタミンDの合成メカニズム
ヒトの体内では、プロビタミンD(7-デヒドロコレステロール)が紫外線(UVB)を浴びることで光化学反応を起こし、プレビタミンDに変換される。その後、熱異性化(転位)によりビタミンD₃へと変化する。
この光化学反応は、ステロイド骨格のB環とC環の開裂を伴う分子内電子環状反応であり、Woodward-Hoffmann則に基づく6π電子系の遷移状態によって進行する。この反応の詳細な解明は、効率的なビタミンD合成法を確立するうえで極めて重要である。



効率的なビタミンD合成法の開発
1950年代以降、ビタミンDの化学合成に関する研究が精力的に行われた。その中で、天然のコレステロールに類似した物質に紫外線を照射することで**プレビタミンD₃(プレビタミンD₃)**が得られることが確認された。しかし、初期の方法では副反応による副生成物の発生が問題となり、収率も低いという課題があった。
後の研究により、プレビタミンD生成条件の詳細な波長依存性が解明され、最も有効な波長が295 nmであることが判明した。この結果、紫外線照射の精度を高めることで、高収率のビタミンD合成が可能になった。
プレビタミンDの異性化とビタミンDの最適な生成条件
プレビタミンDは生成後、熱異性化(転位)によってビタミンD₃へと変換される。この異性化は光照射よりも加熱が効果的であり、プレビタミンD₂およびD₃に対して紫外線を照射し、約50〜60%の収率でビタミンD₂/D₃が得られることが確認された。
一方で、光異性化過程においてタキステロールなどの不要な副生成物が生じるため、医薬品製造においては除去が不可欠である。そのため、より高収率で安定した方法として、2段階のマイクロリアクター法が開発された。
この方法では、
- 第1段階でプロビタミンD₃を紫外線照射によりプレビタミンD₃へ変換
- 第2段階で360 nmの加熱(100℃)を行い、異性化を促進
この手法によって、従来よりも32%高い収率でビタミンD₃を得ることが可能となった。この方法は連続処理が可能であり、高収率・低コスト・省スペースといったメリットを持つため、医薬品や食品業界での応用が期待されている。
まとめ
ビタミンDの光化学合成は、プロビタミンDの紫外線照射によるプレビタミンDの生成、そして熱異性化によるビタミンDの形成という2段階のプロセスを経ることで達成される。

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