CH₃CH₂CH=CH₂(1-ブテン)からアルキンを経由してCH₃CH₂COCH₃(メチルエチルケトン)を合成する経路

1-ブテン(CH₃CH₂CH=CH₂)からメチルエチルケトン(CH₃CH₂COCH₃)を合成する反応経路は、有機化学の基礎的な変換反応を経て進行する。このプロセスでは、まずアルケンをアルキンに変換し、最終的にケトンを得る。以下のステップでその詳細な反応経路を解説する。

反応ステップの概要

  1. 1-ブテンのアルキンへの変換
  2. アルキンの水和反応によるケトンの生成

各ステップについて詳しく見ていこう。


1. 1-ブテンのアルキンへの変換

まず、1-ブテンをアルキン(1-ブチン)に変換する。これは、アルケンを二重結合から三重結合に変えるための反応が必要であり、臭素化と脱ハロゲン化を行うのが一般的である。

a. 臭素化反応

1-ブテンを臭素(Br₂)で処理すると、二重結合が開き、1,2-ジブロモブタン(CH₃CH₂CHBrCH₂Br)が生成される。この反応は付加反応であり、次のように進行する。CH₃CH₂CH=CH₂+Br₂→CH₃CH₂CHBrCH₂Br\text{CH₃CH₂CH=CH₂} + \text{Br₂} \rightarrow \text{CH₃CH₂CHBrCH₂Br}CH₃CH₂CH=CH₂+Br₂→CH₃CH₂CHBrCH₂Br

b. 脱ハロゲン化反応(アルキンの生成)

次に、この1,2-ジブロモ化合物を、強塩基(通常はKOHやNaNH₂)で処理することにより、脱ハロゲン化が起こる。この反応により、1-ブチン(CH₃CH₂C≡CH)が生成される。CH₃CH₂CHBrCH₂Br+2 KOH→CH₃CH₂C≡CH+2 KBr+2 H₂O\text{CH₃CH₂CHBrCH₂Br} + \text{2 KOH} \rightarrow \text{CH₃CH₂C≡CH} + \text{2 KBr} + \text{2 H₂O}CH₃CH₂CHBrCH₂Br+2 KOH→CH₃CH₂C≡CH+2 KBr+2 H₂O


2. アルキンの水和反応によるケトンの生成

次に、生成された1-ブチン(CH₃CH₂C≡CH)を水和反応させ、メチルエチルケトン(MEK、CH₃CH₂COCH₃)を得る。この反応は、アルキンの付加反応の一つであり、一般的に酸性水溶液中で行われ、硫酸(H₂SO₄)と水銀(II)硫酸(HgSO₄)を触媒として使用する。

a. 水和反応のメカニズム

アルキンの水和反応では、マルコフニコフ則に従って反応が進行する。まず、アルキンの三重結合が水分子(H₂O)により開かれ、エノール型中間体が生成される。エノールは不安定であるため、自発的にケト-エノール互変異性により、ケトンに変化する。CH₃CH₂C≡CH+H2O→H₂SO₄,HgSO₄CH₃CH₂COCH₃\text{CH₃CH₂C≡CH} + H₂O \xrightarrow{\text{H₂SO₄}, \text{HgSO₄}} \text{CH₃CH₂COCH₃}CH₃CH₂C≡CH+H2​OH₂SO₄,HgSO₄​CH₃CH₂COCH₃

この結果、メチルエチルケトン(MEK)が生成される。


各反応ステップの詳細

臭素化反応

臭素化は付加反応の一種であり、アルケンに対して進行する。1-ブテンの二重結合が開かれると、ブロモ基がそれぞれの炭素に付加する。この反応は溶液中で行われ、生成物は1,2-ジブロモブタンである。このステップでは、二重結合がなくなり、飽和した構造に変化する。

脱ハロゲン化反応

1,2-ジブロモブタンを強塩基で処理すると、分子内の2つのブロモ原子が同時に除去され、炭素間に三重結合が形成される。これにより、1-ブチンが生成される。この脱ハロゲン化はE2反応機構に従って進行する。

水和反応

アルキンの水和反応は、プロトン付加とヒドロキシル基の付加によって進行する。生成されたエノール中間体は非常に不安定で、迅速に互変異性化を起こしてケトンに変わる。水銀触媒を使用することで、反応の速度と選択性が高まる。メチルエチルケトンは工業的にも重要な化合物であり、溶媒や洗浄剤として使用される。


反応の全体像

  1. 1-ブテン(CH₃CH₂CH=CH₂)
    →(臭素)→
    1,2-ジブロモブタン(CH₃CH₂CHBrCH₂Br)
    →(KOH)→
    1-ブチン(CH₃CH₂C≡CH)
    →(水和反応、H₂SO₄/HgSO₄)→
    メチルエチルケトン(CH₃CH₂COCH₃)

まとめ

1-ブテンからメチルエチルケトンを合成するためには、アルケンをアルキンに変換し、さらにアルキンの水和反応を経る必要がある。これらの反応は有機化学における典型的な変換反応であり、特にケトン類の合成においては重要なプロセスである。アルキンの水和反応によるケトン生成は、マルコフニコフ則に従って選択的に進行するため、産業的にも広く応用されている。


簡易な練習問題

  1. 1-ブテンを1-ブチンに変換する際に使用される試薬は何か?
  2. 1-ブチンからメチルエチルケトンを合成する際に使用する触媒は何か?
  3. アルキンの水和反応で生成される中間体は何か?
  4. 1-ブチンの水和反応で生成される化合物の名前は?
  5. 1,2-ジブロモブタンをアルキンに変換するために必要な条件は何か?

解答

  1. 臭素(Br₂)とKOH(またはNaNH₂)
  2. 硫酸(H₂SO₄)と水銀(II)硫酸(HgSO₄)
  3. エノール
  4. メチルエチルケトン
  5. 強塩基による脱ハロゲン化