合成レシピ

アルコールからアジドへの変換は、有機合成において重要な反応の一つであり、特にアジド基を導入することにより、アミンや他の有用な化合物への誘導が可能となる。

アジド基は、クリック化学やペプチド合成など、さまざまな合成化学の分野で広く利用されている。

この記事では、アルコールを直接アジドに変換するためにジフェニルホスホリルアジド(DPPA)を用いる方法を中心に、その実験手順や注意点について解説する。

1. DPPAを用いたアジド化反応の概要

ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)を用いることで、アルコールを一段階でアジドに変換できる。

従来のナトリウムアジドを用いたメタンスルホン酸エステル経由の二段階プロセスに比べ、簡便で高効率な方法として広く知られている。DPPAは、アルコールをアジドに変換する際の重要な試薬であり、副生成物として生成されるリン酸エステルが容易に除去できるため、反応後の精製も比較的簡単である。

1.1 DPPAによるアルコールのアジド化の特徴

DPPAを用いるアルコールのアジド化反応は、温和な条件下で進行し、高収率を得ることができる。

また、ジフェニルホスホリルアジドはアルコールのアジド化に特に有効であり、他の反応性官能基に対しても選択的に反応する。

2. 実験手順の詳細

以下は、アルコールをジフェニルホスホリルアジド(DPPA)を用いてアジドに変換する具体的な実験手順である。

2.1 材料と試薬

  • アルコール誘導体(1.74 g、4.99 mmol)
  • ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)(1.65 g、5.98 mmol)
  • 1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)(0.91 g、5.98 mmol)
  • トルエン(30 mL)
  • 酢酸エチル(100 mL)
  • 水(30 mL)
  • 飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)
  • 飽和食塩水(50 mL)
  • 無水硫酸マグネシウム
  • シリカゲル
  • 溶媒(7.5% 酢酸エチル/ヘキサン混合液)

2.2 実験手順

  1. 溶液調製と冷却
    アルコール誘導体(1.74 g、4.99 mmol)をトルエン(30 mL)に溶解し、0°Cに冷却する。この冷却は、後の反応の制御を容易にするために重要である。
  2. 試薬の添加
    冷却した反応溶液に、DPPA(1.65 g、5.98 mmol)とDBU(0.91 g、5.98 mmol)を順次加える。DBUは反応の促進剤として機能し、反応速度を向上させる。
  3. 反応の進行
    0°Cで2時間反応をかき混ぜる。この低温条件は、反応の過剰な進行や副反応の発生を防ぐために重要である。
  4. 温度の昇温と溶媒の添加
    2時間後、反応溶液を室温(約25°C)に昇温し、酢酸エチル(100 mL)を加える。
  5. 洗浄操作
    有機相を分離し、水(30 mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)、および飽和食塩水(50 mL)で順次洗浄する。これにより、副生成物や未反応物が除去される。
  6. 乾燥と濃縮
    有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で溶媒を除去して粗生成物を得る。
  7. 精製
    粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(7.5% 酢酸エチル/ヘキサン)を用いて精製する。この操作により、高純度の目的物であるアジドが得られる。
  8. 生成物の取得
    目的のアジドを1.58 gの収量で得る。これは85%の高収率を示しており、反応が効率的に進行したことを示す。生成物は淡黄色の液体として得られる。

3. 反応機構の解説

この反応では、DPPAがアルコールと反応してアジド基を導入する。具体的には、アルコールのヒドロキシ基がDPPAにより活性化され、そこにアジドイオンが攻撃してアジド基に変換される。この反応はDBUの存在下で進行し、DBUはプロトンを除去する役割を果たしている。

反応は以下のように進行する:

  1. アルコールがDPPAによってリン酸エステルに変換される。
  2. DBUがプロトンを除去し、求核的なアジドイオンがアルコールの位置を攻撃してアジド基が形成される。

4. メタンスルホン酸エステル経由の二段階プロセスとの比較

DPPAを用いた一段階反応は、二段階のメタンスルホン酸エステル経由でのアジド化と比較して、操作が簡便である。二段階プロセスでは、まずアルコールをメタンスルホン酸エステルに変換し、その後ナトリウムアジドを用いてアジド基に変換する。この方法では反応ステップが増えるため、全体の収率が低下する可能性があるが、特定の基質に対しては有効である場合もある。

5. 実験上の注意点と最適化

5.1 反応温度

反応温度は、0°Cから25°Cに管理することが重要である。温度が高すぎると副反応が進行しやすく、生成物の純度が低下する可能性がある。

5.2 精製

シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた精製により、副生成物を効率的に除去することができる。溶媒の組成は、7.5% 酢酸エチル/ヘキサンが適切であるが、生成物に応じて最適化する余地がある。

6. 練習問題

問題1:

アルコールのアジド化において、DBUの役割は何か?

問題2:

DPPAを用いた反応で副生成物として生成されるのは何か?

問題3:

反応温度が高すぎる場合、どのような問題が生じる可能性があるか?

問題4:

DPPAを用いた反応と、ナトリウムアジドを用いたメタンスルホン酸エステル経由の反応の違いは何か?

問題5:

シリカゲルクロマトグラフィーでの溶媒組成を変更する理由は何か?

解答と解説

  1. DBUは塩基としてプロトンを除去し、アジドイオンの攻撃を促進する。
  2. 副生成物として生成されるのはリン酸エステルである。
  3. 反応温度が高すぎると、副反応が進行しやすく、目的生成物の収率や純度が低下する。
  4. DPPAを用いた反応は一段階で進行するが、メタンスルホン酸エステル経由の反応は二段階であり、収率が低下することがある。
  5. 生成物の極性や反応条件に応じて、精製の効率を高めるために溶媒組成を調整する。