BOC(tert-ブトキシカルボニル)基を用いたカルバマートの形成は、有機合成で広く用いられるアミン保護法である。
本記事では、ジアゾアミンをBOCカルバマートで保護する具体的な手順について解説する。
1. BOCカルバマートによるアミン保護の概要
アミンの保護は、反応の選択性を高め、不必要な副反応を防ぐために行われる。BOC基は酸や塩基に対する安定性が高く、標的分子が多段階の反応において保護されたまま残ることを可能にする。
最終段階では酸によって比較的簡単に脱保護できることから、有機合成においてBOC保護はよく選択される方法である。
本手順では、ジアゾアミン(R-NH₂)がBOC保護され、Boc-アミン(R-NH-BOC)が生成される。
2. 実験手順
2.1 試薬の準備
- ジアゾアミン:1.4g (4.1 mmol)
- THF(テトラヒドロフラン):20 mL
- トリエチルアミン:3.4 mL (2.5g, 24.6 mmol)
- DMAP(4-ジメチルアミノピリジン):0.01g
- 重炭酸ジブチル:0.95g (4.92 mmol)
- 抽出溶媒:酢酸エチル(30 mL)
- 洗浄溶媒:水(10 mL)、飽和食塩水(20 mL)
- 乾燥剤:無水硫酸ナトリウム
2.2 反応溶液の準備と冷却
- ジアゾアミン(1.4g, 4.1mmol)をTHF(20 mL)に溶解し、反応温度を0°Cに冷却する。
- ジアゾアミンはTHFに溶解性が高く、0°Cでの冷却は反応の制御に重要である。
- 冷却後、トリエチルアミン(3.4 mL, 2.5g, 24.6 mmol)およびDMAP(0.01g)を順に加える。
- トリエチルアミンは反応を塩基性環境にするために使用される。DMAPは求核触媒として作用し、反応の速度を上げる。
2.3 重炭酸ジブチルの添加と反応開始
- 準備した溶液に、重炭酸ジブチル(0.95g, 4.92 mmol)を加え、0°Cを維持しながら4時間攪拌する。
- 重炭酸ジブチルはBOC基を提供する試薬であり、ジアゾアミンのアミン部位と反応してカルバマート結合を形成する。
2.4 反応停止と抽出
- 反応が完了したら、溶液に**氷水(30 mL)**を加え、反応を停止する。
- 酢酸エチル(30 mL)を使用して2回抽出し、有機相をまとめる。
- 酢酸エチル抽出により、目的物のBoc-アミンが有機層に移行する。
- 得られた有機相を**水(10 mL)および飽和食塩水(20 mL)**で洗浄することで、不純物の除去を行う。
2.5 有機層の乾燥と濃縮
- 有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させる。
- 無水硫酸ナトリウムは残留水分を除去するための乾燥剤として作用する。
- 溶液を減圧下で濃縮し、反応生成物を得る。
2.6 精製と生成物の収率
- 得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製する。溶離液として**ヘキサンと酢酸エチル(20:1の比率、後に2:1)**を使用する。
- クロマトグラフィーにより純度の高い白色固体のBoc-アミンが得られる。
- 最終的に、白色固体のBoc-アミン(1.2g)が得られた(収率90%)。
3. 反応機構の解説
3.1 ジアゾアミンとBOC基の反応
アミン保護反応は、アミンの窒素と重炭酸ジブチルのカルボニル炭素が反応し、カルバマート結合を形成することで進行する。この際、塩基性条件(トリエチルアミンとDMAPの添加)が、BOC基転移の効率を向上させ、生成物の安定性を高める。
3.2 カラムクロマトグラフィーによる精製
Boc-アミンは極性が異なる不純物と分離されやすいため、ヘキサンと酢酸エチルの適切な混合比により精製が行われる。この方法は、生成物の高純度を確保する上で有効である。
4. 練習問題
問題1
なぜアミンの保護にはBOC基が一般的に使用されるのか、述べよ。
解答:BOC基は酸や塩基に対して安定であり、最終反応で簡単に脱保護可能であるため、合成中間体の保護に有効である。
問題2
DMAPの役割を簡潔に説明せよ。
解答:DMAPは求核触媒として作用し、カルバモイル化反応の反応速度を上げる。
問題3
なぜ低温(0°C)で反応を行うのか。
解答:低温での反応は副反応の抑制および生成物の選択性向上のためである。
問題4
Boc-アミンの収率が100%未満である理由について考察せよ。
解答:反応過程での抽出・精製ロス、未反応の原料、または副生成物の存在などが収率低下の原因となり得る。
問題5
最終生成物を精製する際、なぜヘキサンと酢酸エチルを使用するのか。
解答:ヘキサンは非極性溶媒で、酢酸エチルは中程度の極性を持ち、これにより不純物の分離が可能となるためである。