雨の日や食事中、予期せぬ汚れが衣服を台無しにしてしまう経験は多くの人が抱える悩みである。このような不快感を軽減するために注目されているのがフッ素化合物を用いた撥水・撥油技術である。
この記事では、フッ素化合物がもたらす防汚性の仕組みやその実用性について詳しく解説する。
フッ素化合物の撥水・撥油性能
表面自由エネルギーがもたらす「はじく」特性
フッ素化合物で処理された布地は、あらゆる液体をはじく。この特性は、固体表面の自由エネルギーが液体のそれより小さい場合に発現する。表面自由エネルギーの差が大きいほど液滴が球形になり、表面でころころと転がるようになる。これにより、液体が染み込むのを防ぐ。
特に高い効果を発揮するのが、**パーフルオロアルキル基(CF₃-(CF₂)ₙ-)**を含むフッ素系処理剤である。この処理剤を用いた表面の自由エネルギーは約10 mJ/m²と極めて小さく、水や油性の液体のどちらもはじく性能を持つ。
以下にフッ素処理とシリコーン処理、そして未処理の違いのイメージを示す。
ちなみに、、、
CF3基が布地の表面全体に緻密に並んだ物質では、6.7 mJ/m2という値が報告されている。
フッ素化合物の優位性
市販されている撥水剤の中にはシリコーン成分を用いた製品もあるが、その表面自由エネルギーは約30 mJ/m²とフッ素系より高い。そのため、シリコーン処理では油性液体(約24 mJ/m²)をはじくことが難しい。これに対し、フッ素系処理剤は水性・油性を問わず高い撥液性能を発揮する。
撥水撥油剤の構造と応用
撥水撥油剤の主成分:アクリル酸由来ポリマー
撥水撥油剤は、アクリル酸を基にしたポリマーが主成分である。このポリマーはフッ素系アクリル酸モノマーと非フッ素系モノマーの共重合体で構成されている。これにより、撥水撥油性だけでなく以下のような特性が付加される。
- 柔軟性:衣服の風合いを損なわない。
- 耐久性:繰り返しの洗濯にも効果を維持。
- 多様な生地への適応性:異なる種類の布地に応じた処理が可能。
これらの特性を実現するためには、分子設計の工夫が不可欠である。
実用例と応用分野
フッ素化合物を利用した撥水撥油技術は、以下のような製品や分野で活用されている。
- 傘やレインコート:雨滴をスムーズに弾き、乾燥を促進。
- 衣服:油性の汚れが付着しても簡単に拭き取ることが可能。
- 家具やカーペット:汚れやシミ防止の加工に利用。
- 産業用途:防汚性が求められる工業製品の保護材。
フッ素化合物の限界と今後の課題
フッ素化合物は優れた特性を持つ一方で、環境への影響が懸念される。パーフルオロアルキル基を含む物質の中には、分解されにくいものも存在し、生態系への蓄積が問題視されている。これに対し、環境負荷を抑えた新しい撥水撥油剤の開発が進行中である。
練習問題
問題1
撥水・撥油性が発揮される条件について、以下の中から正しいものを選べ。
- 液体の表面自由エネルギーが固体より大きい場合
- 固体の表面自由エネルギーが液体より小さい場合
- 固体と液体の表面自由エネルギーが等しい場合
解答と解説
正解:2
固体の表面自由エネルギーが液体より小さい場合、液滴が球形になりやすく、撥水・撥油性が発揮される。
問題2
フッ素系処理剤の表面自由エネルギーとして最も近い値を選べ。
- 10 mJ/m²
- 24 mJ/m²
- 30 mJ/m²
解答と解説
正解:1
フッ素系処理剤の表面自由エネルギーは約10 mJ/m²である。
問題3
撥水撥油剤に求められる特性として適切でないものを選べ。
- 柔軟性
- 耐久性
- 高い吸水性
解答と解説
正解:3
撥水撥油剤に高い吸水性は求められない。むしろ、液体をはじく特性が重要である。