![アンチの立体化学](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/名称未設定.001.jpeg?fit=640%2C360&ssl=1)
はじめに
有機化学の反応を考える時、大抵の反応機構では立体化学を説明していない。
すなわち、その機構でどんな立体異性体が生成するかがわからないままなのだ。
今回はアルケンのハロゲン化反応に注目して、立体化学を学んでいく。
アンチの立体化学
アルケンのハロゲン化反応における、シクロペンテンのようなシクロアルケンを考える。
平面のカルボカチオン中間体を含むとした場合に期待されるシス体とトランス体の混合物ではなく、トランス体のジハロゲン化物飲みが生成する。
この反応が、アンチの立体化学で起こると言われている。
これは、二つの臭素原子が二重結合の反対側の面から入ることを言っている。
つまり、一方は上側の面から、もう一方は下側の面から入ってくることを意味している。
下にその様子を示す。
![アンチの立体化学の立体選択性を示した](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.33.27.png?resize=640%2C216&ssl=1)
アンチの立体化学をどう説明するか?
アンチの立体化学の説明は、反応中間体をカルボカチオンではなくて、ブロモニウムイオンであると考えると良い。
ブロモニウムイオンは、アルケンにBr+が求電子付加して形成される。
アルケンとBr+が相互作用し、同時にBr-が失われることにより1段階で生成する。
![ブロニウムイオンの生成過程を示した](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.33.33.png?resize=640%2C196&ssl=1)
ブロモニウムイオンが中間体として生成すれば、大きな臭素原子が分子の一方の面を遮蔽すると考えられる。
第二段階のBr-の攻撃は反対側の遮蔽されていない側から反応が起こり、トランス体を与えることになる。
![アンチの立体化学によりトランス体が作られる過程を示した](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.33.40.png?resize=640%2C248&ssl=1)
問題を解いてみる
次の反応の生成物の立体化学を示せ
1,2-ジメチルシクロヘキセンにCl2が付加することを考える。
![1、2ージメチルシクロヘキセンに塩素が付加する時の図](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.33.55.png?resize=572%2C226&ssl=1)
アンチの立体化学よりこのようになる。
![1,2-ジメチルシクロヘキセンにCl2が付加するときの立体化学](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.34.20.png?resize=640%2C205&ssl=1)
次の反応で生成物の混合物ができる。なぜか?
1,2-ジメチルシクロヘキセンにHClが付加するとき、生成物の立体化学を示す。
![1,2-ジメチルシクロヘキセンにHClが付加する時の反応式前半](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.34.25.png?resize=510%2C308&ssl=1)
なぜ混合物ができるのか?
水素原子は小さいため、立体障害が少なく、上面、下面どちらからも攻撃できるから。
![1,2-ジメチルシクロヘキセンにHClが付加する時の生成物が混合物であることを示した図](https://i0.wp.com/entropy.jp/wp-content/uploads/2023/07/スクリーンショット-2023-07-14-15.34.31.png?resize=640%2C251&ssl=1)