過酸化ベンゾイル(BPO)を用いたメタクリル酸メチル(MMA)の重合開始反応とその機構

はじめに

メタクリル酸メチル(MMA)の重合反応は、開始剤として一般的に過酸化ベンゾイル(BPO)が使用される。BPOは熱分解によりラジカルを生成し、これがMMAのラジカル重合を開始する。

この記事では、BPOがトルエン中で80℃に加熱された際の重合反応の開始機構について、一次ラジカルの生成からMMAとの付加反応までの詳細を解説する。

1. BPOの熱分解と一次ラジカルの生成

反応の全て

1.1 過酸化ベンゾイル(BPO)の分解

BPO(過酸化ベンゾイル)は、80°C程度に加熱されるとホモリシス(均等開裂)により2つのベンゾイルオキシラジカルを生成する。

生成されたベンゾイルオキシラジカル(C6H5COO・)は不安定で、さらに分解を経て他のラジカル種を生じる。

1.2 ベンゾイルオキシラジカルの脱炭酸反応

ベンゾイルオキシラジカルはすぐに脱炭酸(CO2の放出)を起こし、フェニルラジカル(C6H5・)を生成する。

この過程により、フェニルラジカルが生成され、次に説明するMMAへの付加反応を引き起こす。

2. 生成した一次ラジカルのMMAへの付加

2.1 ベンゾイルオキシラジカルの直接的なMMA付加

ベンゾイルオキシラジカルは、脱炭酸を経ずに直接メタクリル酸メチル(MMA)に付加することも可能である。この場合、ベンゾイルオキシラジカルがMMAの二重結合に結びつき、MMAの重合を開始する一次ラジカルとなる。

この反応によって生成されるラジカルは、MMAの連鎖反応により高分子の形成を開始する。

2.2 フェニルラジカルのMMAへの付加

脱炭酸して生成したフェニルラジカル(C6H5・)もMMAの二重結合に付加し、重合反応を開始することができる。

この付加により生成したラジカルが連鎖反応を引き起こし、MMAが次々と付加して高分子が生成される。

3. トルエンへの連鎖移動とベンジルラジカルの生成

トルエン(C6H5CH3)は、反応中に連鎖移動剤として機能することがある。フェニルラジカルがトルエンに連鎖移動することで、ベンジルラジカル(C6H5CH2・)が生成される。

生成したベンジルラジカルはMMAに付加し、異なる末端基を持つ重合体を生成する。

この反応により、異なる末端基を持つポリマーが生成される。

4. BPOとMMAによる開始反応のまとめ

以上の反応を通じて、BPOは複数の経路でラジカルを生成し、MMAとの付加により重合反応を開始する。BPOの分解により生成されるベンゾイルオキシラジカルやフェニルラジカルは、MMAに付加することでそれぞれ異なる構造のポリマーを形成する。

また、トルエンが連鎖移動を行う場合には、さらに異なる末端基を持つポリマーが生成される。

練習問題

問題1

BPOが分解して生成する一次ラジカルの名称を答えよ。

解答と解説

解答:ベンゾイルオキシラジカル
解説:BPOの熱分解により生成するラジカルは、ベンゾイルオキシラジカル(C6H5COO・)である。

問題2

フェニルラジカル(C6H5・)がMMAに付加したときに生成するラジカルの化学式を記せ。

解答と解説

解答:C6H5CH2C・(CH3)COOCH3
解説:フェニルラジカルがMMAに付加すると、フェニル基にメタクリル酸メチルが付加したラジカルが生成される。

問題3

トルエンに連鎖移動が起きた際に生成されるラジカルの名称と構造を記せ。

解答と解説

解答:ベンジルラジカル、C6H5CH2
解説:フェニルラジカルがトルエンに連鎖移動すると、ベンジルラジカル(C6H5CH2・)が生成される。