ブタナール(分子量: 72, 沸点: 75℃)、ペンタン(分子量: 72, 沸点: 36℃)、および1-ブタノール(分子量: 74, 沸点: 117℃)は、全て比較的近い分子量を持つ化合物である。
しかしながら、これらの沸点には顕著な違いが見られる。この違いは、それぞれの分子間力の性質と強さに起因する。
分子間力と沸点の関係
ペンタンの沸点が低い理由
まず、ペンタン(C5H12)は、分子量が72であるが、沸点は36℃と比較的低い。
この低い沸点は、ペンタンが単純なアルカンであり、主に分子間に働く力がファンデルワールス力(ロンドン分散力)のみであることが原因である。
ファンデルワールス力は、分子間で最も弱い力であり、ペンタン分子間の引力は非常に弱いため、分子を分離させるために必要なエネルギー(すなわち沸点)が低い。
ブタナールの沸点がペンタンより高い理由
ブタナール(C4H8O)はアルデヒドの一種であり、分子量は72であるが、沸点は75℃とペンタンよりもかなり高い。
これは、アルデヒド基(-CHO)が分子に含まれているためである。アルデヒド基には酸素原子があり、極性を持つため、ペンタンのような単純なアルカンに比べて分子間で双極子-双極子相互作用が生じる。
この相互作用は、分子間の引力を強め、より多くのエネルギーを必要とするため、沸点が上昇する結果となる。
1-ブタノールの沸点がブタナールよりも高い理由
一方、1-ブタノール(C4H10O)は、分子量が74であるが、沸点は117℃とさらに高い。
この高い沸点の理由は、1-ブタノールがアルコールであり、ヒドロキシ基(-OH)を持つためである。ヒドロキシ基は、非常に強い水素結合を形成することができる。
水素結合は、分子間の引力としては非常に強力であり、分子を分離させるために必要なエネルギーが大きくなる。結果として、1-ブタノールの沸点はブタナールよりも高くなる。
ブタナール、ペンタン、1-ブタノールの沸点の比較
以上のことから、ペンタン、ブタナール、1-ブタノールの沸点の違いは、それぞれの分子間力の違いに起因する。
ペンタンは弱いファンデルワールス力のみであるため沸点が低く、ブタナールは極性による双極子-双極子相互作用が加わるためペンタンより高い沸点を持つ。
さらに、ブタナールは極性化合物であり双極子モーメントもかなり大きいので、双極子ー双極子相互作用をもっており、ペンタンの分散力より大きい。
しかし、その分子間相互作用は1ーブタノールの水素結合相互作用に比べると小さい。このような分子間相互作用の違いが沸点の差に現れている。
分子間力と沸点に関する簡易な練習問題
- ペンタン、ブタナール、1-ブタノールのうち、最も低い沸点を持つ物質はどれか。また、その理由を述べよ。
- 解答: ペンタン。ファンデルワールス力のみが働くため、分子間の引力が弱く、沸点が低い。
- ブタナールと1-ブタノールの沸点の違いは、どのような分子間力の違いによるものか。
- 解答: ブタナールは双極子-双極子相互作用、1-ブタノールは水素結合を形成する。水素結合がより強い分子間力であるため、1-ブタノールの沸点が高くなる。
- 分子量が同じであっても、分子間力によって沸点が異なる理由を説明せよ。
- 解答: 分子間力の強さが、分子を分離させるために必要なエネルギーを決定する。ファンデルワールス力、双極子-双極子相互作用、水素結合の順に強くなり、分子間力が強いほど沸点が高くなる。
- アルカン、アルデヒド、アルコールの中で、一般的に最も高い沸点を示す化合物群はどれか。その理由を述べよ。
- 解答: アルコール。アルコールは水素結合を形成するため、分子間力が非常に強く、沸点が高くなる。
- 分子量が同じでも、極性を持つ分子と持たない分子の間で、どちらが高い沸点を持つか。
- 解答: 極性を持つ分子の方が高い沸点を持つ。極性分子は双極子-双極子相互作用などの強い分子間力が働くため、より多くのエネルギーが必要となるからである。
このように、化合物の沸点は、単に分子量だけでなく、分子間力の性質によって大きく左右される。