[Co(NH3)6]3+と[CoF6]3-の磁性の違い:結晶場理論を用いた解説

はじめに

遷移金属錯体の磁性は、結晶場理論(Crystal Field Theory, CFT)を用いて理解できる。

本記事では、[Co(NH3)6]3+が反磁性を示し、[CoF6]3-が常磁性を示す理由を結晶場理論に基づいて説明する。

それぞれの錯体における電子配置とその影響についても詳述する。

結晶場理論の基礎

結晶場理論は、金属イオンと周囲の配位子の相互作用に基づいて、d軌道のエネルギー分裂を説明する理論である。

特に、正八面体型錯体では、d軌道はt2g(dxy, dxz, dyz)とeg(dz2, dx2-y2)の二つのエネルギー準位に分裂する。

分裂の程度は配位子の種類によって異なり、強い場の配位子は大きな分裂を引き起こし、弱い場の配位子は小さな分裂を引き起こす。

これは配位子の分光化学系列によって定義されている。

[Co(NH3)6]3+の電子配置と磁性

高スピン・低スピンの違い

[Co(NH3)6]3+は、コバルト(III)イオン(Co3+)を中心とする正八面体型錯体であり、NH3は中程度の場の強さを持つ配位子である。

コバルト(III)イオンの電子配置は3d6である。ここで、低スピン状態と高スピン状態のどちらが形成されるかを考える。

低スピン状態の電子配置

NH3は中程度の場強度を持つため、低スピン状態が形成される。

低スピン状態では、電子はt2g軌道に対して全て対をなす。

この配置では、全ての電子が対をなしているため、反磁性を示す。

[CoF6]3-の電子配置と磁性

高スピン・低スピンの違い

[CoF6]3-は、コバルト(III)イオン(Co3+)を中心とする正八面体型錯体であり、フッ化物イオン(F^-)は弱い場の配位子である。

コバルト(III)イオンの電子配置は3d6である。ここで、弱い場の配位子であるため、高スピン状態が形成される。

高スピン状態の電子配置

高スピン状態では、電子はできるだけ多くの軌道に分かれて配置されるため、以下のような配置となる。

この配置では、少なくとも4つの非対電子が存在するため、常磁性を示す。

結晶場分裂エネルギーと配位子場強度

配位子場分裂エネルギーは、配位子の場の強さによって決まる。

強い場の配位子は大きなを生じ、弱い場の配位子は小さなを生じる。

  • NH3: 中程度の場強度 → 高い配位子場分裂エネルギー → 低スピン状態
  • F-: 弱い場強度 → 低い配位子場分裂エネルギー → 高スピン状態

この結果、[Co(NH3)6]3+は反磁性を示し、[CoF6]3-は常磁性を示す。

結論

[Co(NH3)6]3+と[CoF6]3-の磁性の違いは、結晶場理論に基づく配位子場強度の違いによって説明できる。

[Co(NH3)6]3+は中程度の場強度を持つNH3が配位することで低スピン状態となり、全ての電子が対をなすため反磁性を示す。

一方、[CoF6]3-は弱い場強度を持つF-が配位することで高スピン状態となり、非対電子が存在するため常磁性を示す。

まとめ

結晶場理論を用いることで、遷移金属錯体の磁性を理解することができる。

配位子の場の強さによって、d軌道のエネルギー分裂が異なり、高スピン状態と低スピン状態が形成される。これにより、錯体の磁性が反磁性か常磁性かを判断することができる。

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