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メチルメタクリレート(MMA)の重合における停止反応は、主に再結合と不均化の2つの機構から成り立つ。これらの停止反応は、生成した高分子鎖が成長を止める要因であり、重合の最終段階に影響を与える。
さらに、MMAのバルク重合においては、特定の条件下で「Trommsdorf効果」と呼ばれる現象が発生し、重合速度の加速を引き起こす。この効果は、重合中の高分子濃度や粘度、反応温度の上昇など、複数の要因によって説明される。以下に、各反応の詳細を示す。
1. MMA重合の停止反応機構
MMAの重合停止反応には再結合と不均化がある。両者はラジカルの成長を停止する反応であり、次のような化学反応式で表される。
1.1 再結合による停止反応
再結合反応は、2つの成長ラジカルが結合して一つの安定な高分子を形成し、成長を停止するものである。これにより、生成する分子量はラジカルの鎖長の合計になる。反応式は以下の通り。
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ここで、R・は成長中のラジカルであり、R-Rは2つのラジカルが結合した安定な高分子である。
1.2 不均化による停止反応
不均化反応は、2つのラジカルが水素原子を移動させることで反応が停止する機構である。不均化では、生成物として一方は飽和末端、他方は不飽和末端の構造を持つ高分子が生成される。反応式は以下の通り。
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R-Hは水素原子を受け取った飽和末端の高分子、R=は不飽和末端の高分子を示す。
2. Trommsdorf効果(ゲル効果)とそのメカニズム
MMAのバルク重合において、反応が進行するにつれて重合速度が急激に増加する「Trommsdorf効果」または「ゲル効果」が観察される。この効果は、主に以下の要因によって説明される。
2.1 高分子濃度の増加と粘度の上昇
重合が進むにつれて、生成した高分子の濃度が上昇し、溶液全体の粘度が増加する。粘度が増すことで、反応系におけるラジカルの拡散速度が低下し、停止反応が抑制される。結果として、ラジカルが長時間成長を続けるため、重合速度が増加し、分子量の大きな高分子が生成される。この現象は拡散速度が重合の速度決定段階になるために生じる。
2.2 発熱による温度上昇
重合反応は発熱反応であり、反応が進むと系内の温度が上昇する。温度が上がるとラジカルの生成速度が増加し、さらに反応が加速される。この温度上昇がさらなる重合の加速につながり、急激な反応速度の増加が見られる。
2.3 溶液粘度と重合速度の関係
拡散によってラジカルが停止する速度は粘度の影響を強く受ける。重合の後期に溶液の粘度が高くなると、ラジカル同士が停止反応を起こしにくくなり、生成される分子量が増大する。これにより、粘度がさらに上昇し、反応速度が増加するという正のフィードバックが生じる。
3. Trommsdorf効果の要点まとめ
- ラジカルの停止反応が抑制される: 粘度上昇によってラジカルの停止反応が減少し、成長が続くため重合速度が上昇する。
- 温度上昇による加速: 重合の発熱によって温度が上昇し、さらなるラジカルの生成が促進され、重合が加速される。
- 高分子濃度の影響: 重合の進行とともに高分子濃度が増加し、粘度がさらに上昇することで拡散制限が強まり、Trommsdorf効果が顕著になる。
練習問題
問題 1: Trommsdorf効果が観察される原因を2つ挙げ、簡潔に説明せよ。
- 解説: Trommsdorf効果は高分子濃度の増加に伴う粘度の上昇と、発熱による温度上昇が原因である。
- 解答:
- 高分子濃度の増加による粘度上昇によりラジカルの拡散が抑制される。
- 発熱により温度が上昇し、ラジカル生成が促進される。
問題 2: MMAの重合において、停止反応が抑制されるとどのような影響があるか。
- 解説: 停止反応の抑制によりラジカルの成長が続き、重合速度が増加し、生成される高分子の分子量が増大する。
- 解答: 停止反応が抑制されると、ラジカルが成長を続けるため、重合速度が増加し、分子量の大きな高分子が生成される。
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