
水素は宇宙で最も豊富に存在する元素である
全原子の90%以上を占める水素原子の存在比
水素原子は、全ての元素の中で最も小さく、最も軽いという特徴を持つと同時に、宇宙全体における原子の少なくとも90%以上を占める圧倒的な存在量を誇っている。
これは、ビッグバン後に最初に形成された元素のひとつである水素の根源的な存在意義を示している。
水素原子は生命の構成要素としても極めて重要である
水素原子は、単に数が多いというだけでなく、生命にとっても不可欠な存在である。水分子(H₂O)をはじめ、砂糖、タンパク質、さらにはすべての有機化合物の構成要素として水素原子は含まれている。
生体内の化学反応の多くも、水素の関与なしには成立しない。水素はまさに生命の基本単位の一部を担っているのである。
単体水素の特性と自然界での存在状態
水素分子(H₂)は地球大気にはほとんど存在しない
水素の単体(H₂)は、通常は二つの水素原子が結合した分子として存在する。この水素分子は、無色、無臭、かつ無味であり、地球の大気にはほとんど含まれていない。
水素は非常に軽く、同体積の空気の質量が約1.2 gであるのに対し、水素の質量はわずか0.089 gと非常に低いため、地表に留まることができず、容易に上空へと昇ってしまう。
このため、風船や飛行船に水素を用いることで浮力を得ることが可能となる。
水素は自然界で保存されにくい理由
地球の大気中においては、水素は光分解や火山活動、宇宙線との反応などにより容易に分解・放出され、安定して存在し続けることが困難である。
また、宇宙空間では重力が非常に弱いため、水素が地球などの天体に長期間とどまることも稀である。
水素の産業的生産と主な用途
アンモニア合成への転換が水素の最大用途である
水素の年間生産量は米国だけでも700万トンを超えており、その大半は産業用途に供されている。
とくに生産された水素の約3分の2は、アンモニアの合成に使われており、これは肥料製造にとって不可欠な工程である。すなわち、水素は食糧供給の安定にも直結する基幹的な元素である。
液体水素としての利用価値とその困難性
単体の水素は常温では気体であるが、これを液体にするには−253℃以下まで冷却する必要がある。そのため、液化水素の製造には極低温技術が必要となり、特別な装置とエネルギー消費を伴う。
また、水素は大気中で酸素と混合することで爆発的反応を起こすため、その取り扱いには高度な安全管理が求められる。
宇宙開発における液体水素の役割
ロケット推進剤としての液体水素の重要性
米国の宇宙計画では、液体水素は不可欠な燃料として位置づけられている。1日あたり150トンもの液体水素が消費されているとされており、その用途の多くがロケット推進に関わる。
液体水素は比推力が高く、宇宙空間での加速や軌道制御において他の燃料に比べて非常に効率がよいため、現在でも最先端の宇宙開発における主力燃料である。