光ハロゲン化反応とは?― 光臭素化と光塩素化のメカニズム

1. 光ハロゲン化の概要

光ハロゲン化とは、光の照射によってハロゲン(臭素や塩素)を有機化合物に導入する反応である。特に、臭素(Br₂)を用いる光臭素化と、塩素(Cl₂)を用いる光塩素化が代表的である。

これらの反応は、ラジカル機構を介して進行し、選択的にハロゲン化された化合物を得る手法として広く利用されている。


2. 光臭素化の詳細

2.1 光臭素化の特徴

光臭素化は主にアルカンに対して行われ、Br₂を光照射することで進行する。例えば、2-フェニルプロパン(クメン)にBr₂(5 mol%)を25°Cで作用させると、第三級炭素上に選択的に臭素が導入され、2-ブロモ-2-フェニルプロパンがほぼ100%の収率で得られる。

同様の条件でメチルシクロヘキサンを光臭素化すると、第三級炭素上に90%、第二級炭素上に8%、第一級炭素上に2%の割合で臭素が導入される。これらの反応は、第三級炭素がより安定なラジカルを形成しやすいため、高い選択性を示す。

2.2 光臭素化の機構

光臭素化は、以下のラジカル機構を経て進行する:

  1. 開始反応:光照射によりBr₂がホモリシスし、臭素ラジカル(Br•)が生成。
  2. 成長反応:Br•が炭化水素のC-H結合を攻撃し、炭素ラジカル(R•)を形成。これにより、相対的に安定な第三級ラジカルが優先的に生成される。
  3. 終止反応:R•がBr₂と反応して、臭素化アルカン(R-Br)が得られる。

このように、反応はラジカル連鎖機構を介して進行し、特に第三級炭素が優先的に臭素化される

2.3 光臭素化の応用

光臭素化は、トルエンやキシレンなどの芳香族化合物にも適用可能である。例えば、トルエンを光臭素化すると、p-ブロモトルエンが高収率で得られる。さらに、ベンジルアルコールのエーテルを基質とすると、エーテルのエノール基によって臭素化の進行が抑制されることも確認されている。


3. 光塩素化の詳細

3.1 光塩素化の特徴

光塩素化は、Cl₂を用いた光ラジカル反応であり、臭素化よりも反応性が高く、選択性が低い。例えば、2,3-ジメチル-2-ブタンを光塩素化すると、第一級炭素と第二級炭素の両方に塩素が導入される。

この反応の選択性は、溶媒の影響を強く受ける。ベンゼンなどの電子受容性溶媒中では塩素ラジカル(Cl•)が安定化され、反応性が向上する。このため、塩素化の選択性が増すことが知られている。

3.2 光塩素化の機構

光塩素化の基本的な機構は、光臭素化と同様にラジカル機構を経て進行する:

  1. Cl₂の光分解:光照射によってCl₂が分解し、塩素ラジカル(Cl•)を生成。
  2. 水素引き抜き:Cl•が炭素のC-H結合を攻撃し、炭素ラジカル(R•)を形成。
  3. 塩素付加:R•がCl₂と反応して、塩素化アルカン(R-Cl)が得られる。

この反応では、第三級炭素に対する選択性が低く、第一級炭素や第二級炭素にも塩素が導入されやすい。

3.3 光塩素化の応用

光塩素化は、工業的にも重要な反応であり、特にポリ塩化ビニル(PVC)の合成に利用される。また、**N-ブロモスクシンイミド(NBS)**を用いることで、ベンジル位やアリル位の選択的塩素化も可能である。

例えば、NBSを添加した光塩素化では、90%以上の収率でベンジル塩素化が達成される。同様に、NBSを用いた四塩化炭素中の光塩素化では、ピラノース(糖類)の選択的塩素化も可能である。


4. 光ハロゲン化の産業・科学的応用

4.1 産業用途

光ハロゲン化は、プラスチックや医薬品の合成に広く応用されている。例えば:

  • ポリ塩化ビニル(PVC):光塩素化を利用して製造される。
  • 有機合成中間体:光臭素化や光塩素化を利用して、医薬品や農薬の前駆体を合成。

4.2 半導体材料への応用

光ハロゲン化は、半導体材料の表面修飾にも用いられる。例えば、n形シリコン(n-Si(111))の表面を臭素化することで、新たな電子特性を付与できる。この手法は、次世代電子デバイスの開発にも応用されている。


5. まとめ

光ハロゲン化は、ラジカル機構を介して有機化合物にハロゲンを導入する有力な手法である。光臭素化は選択性が高く、特定の炭素に特異的に臭素を導入できるのに対し、光塩素化は反応性が高く、多様な位置に塩素を導入できる

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