光ニトロソ化:光化学を利用した有機合成技術について

1. 光ニトロソ化とは

光ニトロソ化(Photo Nitrosation)とは、ニトロソ基(–N=O)を持つ有機化合物(R–NO)を合成する光化学的手法である。

この反応は、脂肪族ニトロソ化合物と芳香族ニトロソ化合物に分類され、特に脂肪族ニトロソ化合物は医薬品や農薬の原料として有用である。

ニトロソ化合物は、通常、酸素に触れると容易に酸化されてニトロ化合物(R–NO₂)へ変換される。

さらに、酸と反応するとオキシム(R–N=OH)へ変化することが知られている。そのため、ニトロソ化合物は有機合成において重要な中間体として広く利用される。


2. 光ニトロソ化の基本メカニズム

光化学的にニトロソ基を導入する方法の一つとして、塩化ニトロシル(NOCl)を利用した反応がある。NOClは、特定の波長(λ=752 nm)の光を照射することで分解し、NOラジカル(NO•)と塩素ラジカル(Cl•)を生成する。

このCl•が有機化合物(RH)から水素を引き抜くことで炭素ラジカル(R•)が発生し、これがNO•と結合してニトロソ化合物(R–NO)が生成する(図)。

反応

また、酸素エステルの光分解によってもNO•が発生する。

この際、同時に生じるアルコキシルラジカル(RO•)が基質から水素を引き抜き、ヒドロキシルラジカル(HOR•)を形成する。これがNO•と反応するとヒドロキシニトロソ化合物(HOR–NO)が生成する。

この機構はBarton反応と呼ばれる。


3. PNC法による光ニトロソ化の応用

光化学反応を用いたニトロソ化は、有機合成の分野で応用が広がっている。その代表例が、PNC法(Photo Nitrosation of Cyclohexane)である。この手法では、光照射を利用してシクロヘキサンを塩化ニトロシクロヘキサンに変換し、続いてオキシム化を行うことで多様な誘導体を得ることが可能である。

PNC法のプロセス

この方法は、ナイロン6の合成にも応用されている。特に、光照射を利用することで従来の方法よりも選択的かつ効率的にニトロソ化合物を得ることができる点が特徴である。


4. まとめ

光ニトロソ化は、ラジカル反応を利用した革新的な有機合成手法であり、特に脂肪族ニトロソ化合物の合成において有望である。

PNC法のような手法を活用することで、ナイロン6の前駆体であるε-カプロラクタムの合成が可能になり、工業的にも重要な役割を果たしている。

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