有機

はじめに:化学でよく見る「純度97.0%」ってどういうこと?

化学の実験や研究で「この物質の純度は97.0 area%以上です」と書かれたラベルや報告書を見たことがある人は多いだろう。この数字は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という分析装置で測定された結果に基づくもので、化学物質にどれだけの不純物が混ざっているかを示す目安になる。

でも、この「97.0%」は、みんなが想像するような「重さで97%が本物の成分」という意味ではない。実は、HPLCという装置で表示されるグラフ(クロマトグラム)上の「ピークの面積」によって決まる割合のことだ。

つまり、「97.0 area%」というのは、HPLCのグラフの中で、目的の成分が全体の面積の97%を占めているという意味にすぎない。


HPLCってどんな仕組み?

成分を分ける“走らせるレース”みたいなもの

HPLC(高速液体クロマトグラフィー)は、混ざった化合物の中から目的の成分を「分ける」装置だ。やっていることをイメージで言えば、化合物たちが細い管の中を走るレースのようなもの。

成分によって、この「コース」での走り方(=移動のスピード)が違うので、時間が経つとバラバラにゴール(検出器)にたどり着く。その時間差を使って「これは何の成分か?」や「どれだけ入っているか?」を判断する。

HPLCの基本パーツ

  • 送液ポンプ:化合物を運ぶ液体(移動相)を送り出す
  • オートサンプラー:試料を正確に注入する
  • カラム:成分を分けるための管。中に分離のカギとなる材料が詰まっている
  • 検出器:ゴールにたどり着いた成分を検知する(例:UVライトで感知)
  • データ処理装置:成分ごとの「山」(ピーク)をグラフにして表示する

「面積百分率(Area%)」って何?

HPLCでは、各成分が出てきたタイミングとそのピークの大きさを記録する。大きな山=たくさん入っている、というイメージだ。そこで登場するのが「面積百分率(Area%)」という考え方。

どうやって計算する?

全部のピークの面積を合計して、そのうち目的のピークがどれくらいの割合を占めるかを計算する。

Area% = (目的成分のピーク面積 / 全ピーク面積の合計) × 100

これが97.0%以上であれば、「純度97.0 area%以上」と表現される。


でも注意!Area%は“重さの純度”とは違う

ここが大事なポイント。「97.0 area%」は“面積の割合”であって、“重さで97.0%入っている”とは限らない。なぜなら、HPLCで出てくるピークの大きさ(面積)は、実際の成分の量だけでなく、検出器の反応のしやすさ(=応答係数)にも左右されるからだ。

応答係数って何?

成分によって、UVライトをどれだけ吸収するか(=どれだけ検出器が反応するか)が違う。だから、同じ重さの2つの成分でも、片方は大きなピーク、もう片方は小さなピークになることがある。

つまり、応答係数が違うと、Area%は本当の重さの割合とズレてしまうのだ。

たとえば…

  • 応答係数が高い不純物:実際は1.5%しか入ってないのに、面積では3.0%に見える ⇒ 本当の純度は97.0%以上!
  • 応答係数が低い不純物:実際は6.0%も入ってるのに、面積では3.0%しか見えない ⇒ 本当の純度は94.0%!

面積百分率の限界と見えない不純物

水や無機塩などは検出されない!

HPLCでは、基本的に「UVを吸収する有機化合物」しか検出できない。つまり、水、無機塩、脂肪族飽和化合物などは、存在していてもグラフに出てこないことがある。

だから、水分や塩がいっぱい混ざっていても、Area%では「純度97.0%」と表示される可能性がある。

検出できないレベルの不純物(LOD以下)もある

さらに、微量すぎて検出器が反応しない成分(検出限界以下)は、存在していてもグラフに出てこない。これらも純度計算の対象外になる。


本当の純度(Mass%)を知るにはどうする?

補完的な分析が必要!

HPLCのArea%だけでは、本当の意味での「重さでの純度」はわからない。そこで必要なのが、他の分析手法との組み合わせ:

  • 水分:カールフィッシャー法(KF)で測定
  • 残留溶媒:ガスクロマトグラフィー(GC)で分析
  • 無機物・非揮発性不純物:TGAや灰分測定

すべてを足し算・引き算する「100%法」

水分、不純物、残留溶媒など、全部の不純物を測って、試料全体から引き算すれば、目的成分の「重さでの純度」が求まる。これを「100%法」と呼ぶ。


まとめ:97.0 area%の読み方と注意点

  • 「97.0 area%」は、HPLCグラフ上で目的成分のピークが全体の97%を占めているという意味
  • でも、それが“重さで97.0%の純度”とは限らない!
  • 成分ごとの検出感度(応答係数)や、見えない不純物の存在で、実際の純度は違ってくる
  • 本当の純度を知るには、他の分析方法と組み合わせて評価することが大切

化学を学び始めたばかりでも、このポイントを理解しておくことで、今後の分析結果をより正しく解釈できるようになるだろう。