
液晶ディスプレイは、薄いけどスゴい!——その中に詰まったフィルムたちの正体
スマホ、テレビ、ノートPC…。私たちの身の回りにあふれる液晶ディスプレイ(LCD)には、実は驚くほど多くの高機能フィルムが使われている。
偏光板や輝度向上フィルム、プリズムシート、光拡散フィルム、反射フィルムなどが重ねられ、それぞれが役割分担している。
これらのフィルムは単なる“薄いシート”ではなく、光を操るための精密機能部材である。中でも、光の性質の中でもややマニアックだが重要な「複屈折(ふくくっせつ)」は、表示性能や視認性を左右するキーポイントだ。
複屈折ってナニ?光は方向で性格が変わる!
分子鎖がズラリと並ぶと、光の通り方も変わる?

高分子は、糸のように長く連なった「分子鎖(polymer chain)」でできている。図を見るとわかるように、分子が一直線に並んでいる方向と、垂直方向では、原子の“混み具合”が違う。
ちょこっと豆知識①:高分子は、電子レンジのラップやペットボトルの素材にも使われている。実はあなたの身の回りも分子鎖だらけ!
分子がぎっしり詰まった方向では、光がその中を進むときに分子の振動に引っかかって、スピードダウンする。逆に、隙間だらけの方向なら、スイスイと速く進める。このスピード差が“複屈折”という現象を生むのだ。
屈折率は光の「進みやすさ」を示す指標
屈折率 n は、光の進みにくさを表す数値で、真空中の光速 c を、物質中の光速 v で割った値で定義される。
n = c/v
つまり、分子が密な方向では光速 v が遅くなるので屈折率 n は大きく、密度が小さい方向では屈折率が小さくなる。この方向ごとの違いこそが「屈折率異方性」なのである。
分子がぐるぐる?ランダム?それともピシッと整列?
とろけた高分子は“全方向自由”

図に示されるように、高分子がとろけた(溶融)状態では、分子鎖がランダムにぐちゃぐちゃに絡まり合っている。この状態では、どの方向から見ても原子の密度が同じだから、光の進みやすさ=屈折率も等しくなる。
この状態を「屈折率等方性(とうほうせい)」と呼び、屈折率差
Δn=n∥−n⊥=0
になる。
ちょこっと豆知識②:ゴムやシリコーンはこの等方性に近い構造。だから引っ張っても光の進みにはあまり影響がない!
引っ張って整列!複屈折の誕生

ところが、図のように分子を引っ張ってピシッと整列させると、状況は一変。原子の密度に方向性ができ、屈折率も方向によって異なる。つまり、屈折率差 Δn が生まれ、複屈折が発生する。
これが光学フィルムや偏光板、そして位相差板などの設計のカギとなっている。
家でもできる!複屈折のふしぎな観察実験
プラスチックが虹色に見えるのはなぜ?
複屈折を手軽に体験できる方法がある。それは、CDやDVDの透明ケースを2枚の偏光板で挟んで観察すること。
ただの透明なプラスチックが、まるで虹色の模様をまとったように見えるのだ。
ちょこっと豆知識③:これは「ストレス光学効果」と呼ばれる現象で、成形時に内部に残った“力の跡”が光に反応して色を出す!
色の模様は、製造時の引っ張り具合や冷却条件によって変わるため、同じCDケースでも模様は千差万別。身近な材料に秘められた、光と構造のドラマを感じることができる。
複屈折と光学材料の未来
複屈折の理解は、液晶ディスプレイだけでなく、ARグラス、偏光顕微鏡、フォトニックデバイスなどの最先端技術にもつながっている。分子を整列させることで光を自在に操る——そんな“光の職人芸”が、未来の映像技術を支えているのである。
まとめ:透明なのに“色”がある世界へようこそ!
複屈折とは、光の進む方向によってスピードが変わる不思議な現象。高分子の分子鎖が整列することで屈折率に方向性が生まれ、光が“迷う”ようになる。この特性を上手に使えば、色彩豊かな表示や高性能な光学素子の実現も可能となる。
次にスマホの画面を眺めるとき、「この映像は分子鎖たちのチームプレーでできている」と想像してみてはいかがだろうか。透明な中に隠れた色と技術が、あなたの目に映像を届けているのである。